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夜に外へ出てはいけないよ。鬼が出てお前を食ってしまうからね。
俺を拾ってくれた爺さまと婆さまがずっと言ってた言葉だった。
子どもの頃は何をおとぎ話を、と思っていたがだんたんと思い出すとそうだ、俺と母は町から家に帰る夜道を歩いていて何か獣のようなものに襲われた。
母は俺を山の下に突き飛ばし訳もわからず転がって泣いているところを爺さまに拾われた。恐らく、おとりになって俺を逃してくれたのだと今ならわかる
気の良い爺さまと婆さまは大事に俺を育ててくれた。年老いた二人が俺を置いて行っても一人で大丈夫なように
そうして二人が亡くなった後も言いつけを守りながら山で静かに暮らしていた。
そんなある日畑から帰る道の途中偉く高そうな着物を着た男が歩いていた。こんな山の奥を歩くにはひどく難しそうで場違いな男が。
「やぁ、そこの。山の夜は冷える。昔からの言い伝えで夜は鬼が出るという。ボロい家でも良ければ一晩泊まって山を越えてはどうだろうか」
男は赤い目を細めて笑うと「じゃあそうさせてもらおう」と言って難しそうな服の割には遅れずに自分の後をついてきた。
「お前は名前はなんという」
「太郎。あなたは」
男は何がおもしろかったのか「太郎、太郎」とつぶいやいたあと無惨と名乗った。なにやら探し物をして歩いているらしい。罠にかかっていた兎を焼いてやり少しばかりの野菜の入った汁を準備して久方ぶりに風呂を炊くと彼は文句を言わず、むしろ当然の扱いのように世話を焼かれた。
やはり、身分の高い者だったのだろうか。そう思ったが結局自分には関係のないことで布団を彼に譲り後座を敷いて横になる。
妙な雰囲気の男だが久々の人の気配にいつの間にか夢に落ちていた。
「太郎起きろ、鬼が出たぞ」
「何?」鬼という言葉に反応して起き上がろうとして、俺を跨ぐようにして爛々と輝く赤い目がこちらをじっと見ていた。
無惨が邪魔で中途半端に上体を起こしたままそこから起き上がれない。
「おい、どいてくれ。あんたが居たんじゃ外の様子も見にいけない」
「鬼が出たぞ。どうする太郎」
ゆっくりと押し倒してくる無惨が鬼が出たという割には落ち着いた声で話しかけてくる。赤い目に囚われたように視線が離せない。
「無惨?むざんぐぅ!?」
唇に噛み付かれ口の中を舐めまわされる。ぬるりとしたものが喉の奥をさすめて気持ち悪い。それに何より鉄の、血の味がする。
「ぐっ、ぁ、っ...!」
ぐちゅぐちゅと酸欠になった頭に音が響く。肩を思い切り押すが華奢そうな体はびくりとも動かない。
心臓の音がうるさい。頭に血が上る。
ぶちっ
思わず噛みついてしまい嫌な音が聞こえたが男はやめなかった。唾液と噛んでしまってさらに増えた血でいっぱいになり思わず飲み込んでしまう。華奢そうな体は押してもびくりともしなかった。力を入れて暴れていた手も熱に侵されたようにぼうっとして力が抜けていく
「ごふっ、ぐ、おえ、っ」
溢れる液体にえずくとようやく口が離れていった。細胞が一つ一つ燃えるように熱い。肩で息をする。目の前がチカチカしてよく見えない
「はぁーっ、はぁーっ」
燃えるのような体と必死に酸素を取り入れようとする呼吸、ぼんやりする意識の中で男が
「ほら、鬼がでただろう」
そう楽しそうにわらったのがわかった」
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