温かく落ちる想いが



学園には学園長の飼っている犬も含め、三匹もいるからか、吠えられると恐いのかもしれない。
その三匹はそれなりに大きいが、自分の飼っている犬は子供なので、それでだろう。
だから、できるだけ目の届く範囲にいさせているつもりだった。
なのに、気づいたらいなくなってしまっていて、だいぶ前から、通りかかった生物委員会の委員長代理である竹谷に手伝ってもらいつつ、桜は自分の飼っている犬を探していた。

こういうときに限って、なかなか出て来ないので、辺りが暗くなってもまだ見つからずにいた。
「桜? こんな時間まで何してんだ?」
草むらをガサゴソいわせながら掻き分けていれば、そう後ろから声をかけられたのでびっくりする。
暗いから、余計に背後からの声には過剰反応していた。
「捜し物か?」
さらに聞かれて振り返れば、それはまだ制服を着たままの久々知だった。
「兵助。ソラがいなくなっちゃって……」
ずっと探してるんだけど見つからないと桜が言えば、久々知はなぜか首を傾げた。
「八左ヱ門も犬を探してるって言ってたけど……」
と、久々知の言葉が言い終わらないうちに、当人が姿を現した。

「桜。こっちにソラ逃げて来なかったか?」
暗闇の中、白い小さな塊が走り抜けて行くのを見たのだと竹谷は言うが、それならとうに捕まえている。
「来なかったけど……」
「縁の下じゃないか? あいつ、縁の下に入るの好きだからな」
戸惑う桜の言葉にかぶせるように久々知が言えば、竹谷はうーん、と首を捻った。
縁の下など、とっくに確認済みだったのかもしれない。
「まあ、桜が見てねえなら、それもあるかもなあ」
そう言いながら竹谷は縁の下をのぞき込むが、見当たらないのか、こちらをちらりと振り返る。
「兵助。呼んでみてくれ」
手に持った火を揺らめかせながら、縁の下をくまなく探す竹谷に促され、久々知も膝を付くと頭を屈めて口を開いた。
「ソラ! 桜が心配してるぞ! 出て来い!」
その瞬間、縁の下から転がるように走り出て来た白い塊は、呼んだ本人である久々知へと真っすぐに飛び込んだ。

ぐ、と久々知は小さくうめいたが、しっかりその塊を抱きしめる。
「おれらが散々、苦労して探したっていうのに、兵助なら一発か……」
ソラと名付けたのは竹谷だし、飼い主は桜なのに、なぜか久々知に一番懐いているのだから困ってしまう。
「何だったら、兵助が飼う?」
飼い主としては悔しかったので、そう桜が言ってみれば、久々知はようやく立ち上がりながら、何言ってんだかとばかりに笑った。
「ソラがおれに懐いてんのは、桜を守る男同士だからだよな?」
子犬と顔を合わせるようにして久々知はそう言ってから、今度は桜へと視線をくれる。
「桜だって、本当はこいつを手放す気なんてないくせに。傍にいなかったら、寂しくて仕方がないんだろう?」
桜が寂しがり屋なことくらい、とうにわかっているらしく、そう久々知に言われたら返す言葉もない。
腕の中に戻された子犬と共に頭を撫でられ、桜が恥ずかしさに頬を真っ赤に染めれば、久々知からはハハッと楽しそうな笑いが漏れた。



End.























**
ソラ=空で、彼女が空を見上げているのが好きだから、竹谷が子犬に付けてくれた名前だったりします。


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