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日和でいうなら、いい日だったのかもしれない。
春休み明けなのだから、桜が咲いているのは普通だと思ったが、いい天気であることには、気分もよかったのだろう。
風は少し強めだが、それすらも気にならない。
いつもと変わらない新学期だと思うのに、胸の奥が騒つくような、そんなめずらしい気配がした。

登校する道すがらに桜なんて咲いていただろうか。
そう思うくらい今年の桜は見事で、綺麗に咲き揃っていた。
たまには、こういう中を歩くのもいいものだと思いつつ、この風で道に落ちてしまっている花びらは、いざというときは滑りそうだと考えるのも忘れなかった。
そして、この強めに吹く風ももしかすると、仇になりやすいかもしれない。
そう考えながら足を進める鉢屋の前に、スッと人影が現れたのだが、その正体を確かめるより先に、ざぁっといままでで一番強い風が吹き荒れたせいで、視界を奪われる。
つむじ風は目を開けていられるほど、やさしい風じゃなかった。

しまった……っ!
ぎゅっと瞑ってしまった目をどうにか開けたものの、地面に散らばっていた花びらが舞い上がったり、枝から散った花びらのせいで、辺り一面が淡い桜色に埋め尽くされていて、結局、視界が悪いことに変わりがなかったから、一瞬、動揺する。
しかし、気配を探ることは難しくはなかったから、前方に一つだけある人の気配にのみ、鉢屋は集中していた。
すぐに収まった風のお陰で、辺りを埋め尽くしていた桜の花びらもゆっくりと舞い落ちて行くから、だんだんと視界も晴れて行く。
前方に知らない人の気配がなければ、綺麗な景色に見惚れるところだが、いまはそんな場合じゃなかった。

ちらちらと舞う花びらの向こうに姿を見せ始めたのは、年の若い女の子で、気配はずっと変わっていなかったから、彼女がさっき鉢屋の前に現れた人影の正体だとわかる。
彼女の柔らかな茶色い髪が陽に透け、稲穂のように淡く色を変えて風にふわりと揺れているのが見え、次いで思っていた以上に綺麗な顔が露になると、鉢屋は思わず見惚れていた。
町娘のような格好だが、どこへ行くのだろうかと鉢屋が考えている間に、舞い上がっていた花びらは一掃され、視界はすっきりと青空に戻り、それと同時に彼女が顔を上げてこちらを振り向いた。

「こんにちは、鉢屋くん」
紅を塗ったんじゃないかと思えるくらい艶々した唇から出た言葉に、鉢屋は凄くびっくりする。



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