02



あいさつはともかく、自分の名を知っているということは、忍術学園の生徒ということではないだろうか。
そうでなければ、不破の顔を借りているのに、鉢屋三郎だと見分けられるはずがないだろうと思えた。
しかも、口振りからすれば鉢屋と同じ五年生か、一つ上の六年生かもしれない。
見かけたことがないのに、さすがに先生や学校関係者ということはないだろうし、彼女は見た目からしてもかなり若かったから、そうとしか思えなかった。

しかし、あいさつを返すだとか、名前を聞いてみるだとか、とにかく鉢屋が口を開こうとするより早く、彼女がサッと歩き出してしまったので、呆気なくタイミングを逃してしまう。
本当なら後を追えばよかったのだが、そこで立ち止まっていたから、後ろからやって来た不破に声をかけられ、鉢屋の気が逸れた隙に、彼女はもう見えなくなってしまっていた。
「どうしたの、三郎」
事情を知らない不破が不思議そうに聞いて来たが、鉢屋は答える気にもなれなかった。



再び彼女を見かけたのは、そんな登校途中の出来事など、すっかり忘れ去ってしまっていたころのことだった。
昼を食べ終え、午後の授業が始まる少し前、天気がいいときは一番眠くなる瞬間に、偶然見かけた。
塀の傍に植えられている木の上から、唐突に彼女が降りて来たところを、だ。
始めは全く気づかなかったし、気にもしていなかったのだが、頭巾からはみ出している、結われた髪の色に見覚えがある気がして、その顔を見て、ようやく登校途中に会った彼女だと気がつく。
本当にうちの生徒だったのかと、妙に納得しながら鉢屋はふと思いついて、後ろで本を読んでいる不破を振り返った。

「雷蔵。あれ、誰か知ってる?」
木の根元に座り込み、本を広げた彼女を示して三郎が聞けば、不破は窓際までやって来て、確認してくれる。
「えっと確か……六年の新実先輩だったと思うけど……」
少し自信がなさそうな不破だったが、心当たりがあると思いつくだけ凄いと思う。
自分なんて、彼女が忍術学園の生徒かどうかも怪しいと思ったくらいだ。
「新実何? 下の名は何ていうんだって?」
上の名を聞いても、知らない名前だとしか思えなかったが、とにかくそう聞いてみると、すぐに知らないと返って来たので、鉢屋は彼女にやっていた視線を隣にいる不破へと向けた。

「何で知らないんだ?」
「たまに図書室に来られているのを見かけるけど、ぼくが当番のときに当たったことがないから、聞き知っている上の名しか知らないんだよ」



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