03



駆け寄る桜に叫んで来るのは神崎で、もちろん女装しているわけなのだが、違和感なくまとまっているせいか、すぐに彼だとわかってしまう。
「何やってたんだ」
そう言う次屋もちゃんと女の子で、三年生はすっかり女装が慣れてしまっているのかもしれなかった。

それにしても、と思う。
すぐに門を出て歩き出した三年生たちの真ん中にいた桜は、後ろを歩く伊賀崎と富松の姿をまじまじと見て、ため息を吐く。
この二人もまた、可愛らしい女の子で、桜としては何とも言えない気持ちになる。
元から顔がいい六人なので、女装したら可愛くしかならないのはわかっていたが、本当に複雑だ。
ただ一つ言えるのは、一緒にいる自分が男装しててよかったということだ。
女のままで、この集団に混じっているなど、さすがにできそうもなかった。

「……人の顔見て、ため息を吐くな」
振り返ったままで吐いたため息に気づかれ、伊賀崎が不機嫌そうに言う。
「だって伊賀崎くんも富松くんもみんなも、可愛すぎるんだもの」
ハア、ともう一つ息を吐き出せば、富松が眉間にしわを寄せる。
「可愛いって言われたほうがいいのはわかってるが、お前に言われると、全然うれしくねえ」
なまじっか親しいだけに、複雑さが増すのか、どこか嫌そうでもあった。
「だな。だが、お前のほうが可愛いと思うぞ?」
隣に並ぶ次屋が言うから、今度は桜が顔を顰める番だった。

「それはいまの話? だとしたら、頑張った甲斐なくなるんだけど」
さっきほめてくれた鉢屋のあれも、ただの社交辞令だったかと、思いそうになるが、それより早く、次屋がいつものお前のことだと言ったから、ついホッとする。
「そうだよねえ。桜はいつも、凄く可愛いと思うよ」
さらりとつなげたのは前を歩く三反田で、反論しかけていた桜は言葉をなくし、頬を染めるしかできなかった。

何だかんだ言いつつも女装も男装もそれなりにうまく、そつなくこなせた。
普段、男の子である彼らの女言葉を聞くのはむず痒くもあったが、慣れると本当に楽しかった。
暇があっても、こんなふうに町に来ることがないから、そのせいもあるのだろうか。
「今度は、普段通りのおれたちで遊びに来ようか」
桜が町に出ることがないと知っているからか、浦風がそう提案してくれる。
「そうだな! ぼくも、桜と出かけたい!」
神崎が目一杯の声音でそう主張すると、みんなも口々に賛成だと言ってくれた。
あえて外に出なかったわけではないが、そう言われるのは凄くうれしかったので、桜も約束ね、と笑顔でうなずいた。



End.






















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三年生で女装したら、一番綺麗なのはやっぱり藤内じゃないかと思います。

28ページ、鉢屋と話した後くらいの話になります。



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