01



「桜、ちょっといい?」
午後は少し暇だったので、何をしようか考えていたら、三反田に声をかけられた。
教室を出るところだったため、廊下に出て彼の話を聞く。
「今日って暇ある?」
委員会とかないかと聞かれたが、まるきり暇だった桜がそう言えば、三反田はどことなくホッとしたようだった。
「裏山に薬草を摘みに行くのにつき合ってもらえないかな?」
そう言うから、桜は興味もあったし、二つ返事で了承した。

薬草摘みは、保健委員全員で行く予定だったらしいのだが、一年生の乱太郎と伏木蔵が授業の一環で出かけてしまったため、人手が足りないらしい。
だが、そこでなぜか保健委員長の伊作から、桜に手伝いを頼んでみてくれないかと言われたのだと聞き、桜はびっくりした。
本当になぜ、自分なのか。
「あれ? 忘れちゃった?」
裏門で待っていた伊作が顔を合わせるなりそう言ったから、何のことかと桜は首を傾げる。
「薬草のことについて教えて下さいって言ったの、桜のほうじゃないか。何も知らないから覚えたいんです、って必死だったから」
それで今回、誘ってくれたらしいのだが、すっかり忘れてしまっていた自分が恥ずかしくなる。
忍者になる以前に、桜はみんなが知っていそうな薬草でさえも見分けがつかないから、一から勉強したかったのだ。
覚えなければならないことがたくさんあるから忘れていたが、ようやく思い出した桜は、ますますやる気になっていた。


「桜先輩。それ、踏んじゃ駄目です――!」
川西の大きな声にぴたりと動きを止めた桜は、いま踏もうとしていた草をどうにか避けると足を下ろし、それをまじまじと見る。
「川西くん。これ、薬草なの?」
後ろにいた川西を振り返ると、彼はそれを摘んで桜のカゴに入れると、そうですよ、とうなずいた。
「すり潰して菴法……ええと、炎症や充血を除去するために冷やすことですが、それに使います」
桜が怪訝そうな顔をしたのに気づいたのか、少しわかりやすく説明し直してくれた川西にうなずきながら、要するに湿布と同じ役目なのだと、桜は納得する。
自分から見たらただの草だが、侮れないんだなと、桜は同時に感心もしていた。

どれくらい経ったころか、桜はときに伊作、またときに三反田、そしてたまに川西に教わりながら薬草摘みに励んでいたが、不意に後ろから悲鳴のようなものが上がったことに気づき、あわてて振り向いた。
すると、地面を転がった川西が木に激突するのが見え、桜はギョッとなる。
「川西くん!」
焦って、たったいままで隣にいた三反田を振り返れば、その視線の先で、彼が地面にあった窪みに足を取られて、派手に転ぶのが見えたので、桜はさらに狼狽えてしまう。
「三反田くん! 大丈夫?!」



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