人間は愛し神子を殺した
鐘の音がカランカランと特徴ある音と共に鳴り響いては、二拍手のパチンパチン。それから暫くの静寂が訪れては人々の囁き声が聴こえる。これは私の取るに足らない日常的な物語。



『無病息災…安産祈願……今年ももう終わりだね』
「汐慧様。お茶の支度が出来ました」
『ありがとう弥都波』
「午後の茶葉は俺のブレンドになります。お疲れの様なのでハーブを調合してみました」



白いティーソーサーが置かれれば私は指先を引っかけて両手で器を持ち、口元へ運ぶ。口をつけて少し傾けながら喉元を通れば一息。



『おいしい。弥都波は器用だね』
「お褒めの言葉、光栄です」



柔らかく微笑む弥都波に私も口角を上げた。
神社の社に鎮座する事はとても退屈でとても窮屈でもある。それでも私は自身の責務を果たすためにここに居続ける。自分が決めた、自分の道だから…。



「参拝客。例年より多そうだな」
『セツ』



名簿に記載をしていたら後ろから昔馴染みの雪慈が顔を覗かせた。驚く事もなくなったこの登場の仕方だけど、私は彼が帰って来た姿を目撃すれば筆を止めて振り返る。



『おかえりなさい』
「おう、ただいま」



笑顔でそう言うと彼も微笑みを返してくれた。



『今日はどんな話があるの?』



ゆっくりと座ったばかりの雪慈に私は子供の様に瞳を輝かせて急いた。外の世界の話を。



「大学の講義の話がそんなに聞きたいのか?オレは少し脳みそを休めたいんだけどな…」
「では俺はお茶の用意をしてきます。この愚者のために」
「おい、それはオレの事か?弥都波」
「誰とは言ってないのに反応する馬鹿が居たとしたらそれは自分の事だと思った方がいいと、どこかの本に書いてあったことは本当のようですね」



綺麗な顔で笑う弥都波に雪慈が喧嘩腰で挑んで行くのは日常茶飯事。私はこの賑やかな雰囲気を嫌ってはいないため、傍で笑っていた。
悪態つきながらも雪慈は話し始める。彼の日常は私にとって冒険小説に近いのだった。これが私の生活の一部始終。所謂、私の日常だった…そう、だった。
もうこれ以上の破壊を誰も望んではいなかったのに…。幸せを脅かす魔の手が差し迫っていた。

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