It served as the patron 「夏目!!」 春虎くんを先頭に私たちは呪練場まで導かれた。ここの設営は国家一級品、まさかここを指定するとは。あの時のは下見だったのか。夏目さんを、ではなくこの場にて事を成そうという……。 それにしてもこの徹底した準備。彼の背後に誰かがいる。いいように駒に使われていることもわからないとは、呪捜官が聴いて呆れる。小父様も嘆くだろうな。ともかく、こうなることを私よりもよくご存知だった美代さんと陣さんにはたっぷり事の説明をしてもらうとしよう。 「初めてだったけど上手くいったみたいね」 「倉橋家のじゃじゃ馬でしたか。まあいいでしょう」 彼はそう言って自身が放った式神の式布ごと燃やした。あの式を使わない所を見ると、相手の一番の切り札を出される可能性が高い。単なる操り人形のようだし……、まったく。生徒達だけで太刀打ち出来るか五分程度という目安かな。 「王よ。今から貴方の護法である我々があのガキ共との格の違いをお見せ致します。ご覧あれ!!!」 そう言って呪捜官は自身の背後に、彼の切り札であろう。式神を召喚した。鬼の異形をした仮面を被る、隻腕の鬼。その特徴ある姿に皆が驚きを隠せずにいた。 「隻腕?!そんなっまさか……」 { 北辰王。土御門夜行が使役せし二体の護法。我こそは角行鬼!! } 「そして我が名は飛車丸!!」 「あれ、本物の角行鬼?!」 「京子判るか?」 「角行鬼は使役式。つまり実体化した霊的知性体。それも何百年も生きた本物の鬼だと言われているわ。だとすれば、外見は大幅に変化出来たはず。片腕がないという特徴を除けば」 『 違う 』 角行鬼はこんなに弱くない。こんなに小さくない。形ばかりの木偶の坊じゃないか、これでは。それでもよく出来ている。よく出来ているからこそ、生徒達だけじゃ太刀打ち不可能だ。陣さんも美代さんも、私に責務を押し付け過ぎだ。 苦虫を潰す思いで私は歯を食いしばった。偽角行鬼が春虎くんを捉え、攻撃を仕掛けてきた。それを錫杖で受け止める。周囲に出来た防御層、陣さんの特殊加工を施したその錫杖で何とか凌いだ程度。 「皆、頼む!」 春虎くんの声に倣い、皆が四方に飛ぶ。 「この錫杖…やるじゃねぇか大友先生」 弾き返された鬼は、バランスを崩す。そこを的確に狙う春虎くんの護法式、コン。身軽に交わしながら鬼の攻撃を避けていると京子が天馬に叫ぶ。 「天馬っ」 迫り来る攻撃に天馬は式布をバラ撒きあたふたと焦っていた。拳が当たりそうな寸前で冬児が天馬を抱えて避ける。 そのバラ撒いた式布が丁度足元で呪術が発動する。足止めには十分な縛りだったことを利用し、春虎くんとコンが先制を仕掛ける。そんな彼らを補助する京子、天馬、冬児。 状況判断をしながら隙を作ればこちらへ攻撃を仕掛けてくる。 「詩呉!」 冬児の声が聴こえるけれど、その拳を宙へ避ける。空中で一回転してから袖口に仕込んで置いた式布を取り出し、発動する。 『雷鳴よ轟け、急急如律令』 雷が鬼の頭上へと降り注ぐ。その高圧的な電撃に呪捜官は眉を潜めた。 「(あの娘、何故あれ程まで冷静に活攻撃を仕掛けることが出来る。学生なはず)」 「心配要らないわよ、詩呉はああ見えて成績は上位者」 『京子、天馬』 「わかった!」 「任せて」 二人が同士に水撃を発動し、再び雷撃を喰らわし鬼の猛追を押しとどめる。 「阿刀君が心配する程あの子はやわじゃないわ」 「……」 地面に着地すれば、呪捜官の目の色が変わる。何か、仕掛けてくる。そう察知したと同時にその令は轟いた。 「角行鬼やちゃって!!」 『っ!!オン・マリシュ・ソワカ』 詠唱をして彼らの周囲に簡易結界を施す。間に合わない距離にはあるがそれでも少しでも攻撃を減少させるために唱えれば、鬼の攻撃は彼らまで届くことはなく。結界の防御壁との衝突による爆風に弾き飛ばされる程度で済んだようだ。息を吐き出した時、私は隙を見せた。 「厄介ね」 『ッ!?ぐ…っ!!』 角行鬼の膝蹴りが腹部に炸裂した。そのまま弾き飛ばされるように壁にぶつかり鄙劣を生む。 『っく、この……ッ!!』 「詩呉!!」 内蔵を傷つけたようで、吐血する。悲鳴のように声をあげた京子。このままでは不味い。 「あーららら、要の子もヤられてしまいましたね。そろそろ私たちが味方だということを認めてくださいますか?」 そう言って呪捜官は夏目さんに近づく。 「でないと…皆殺しちゃいますよ?」 「やめて!お願いだから……もうっ」 「認めてくださいます、ね?」 「……は、はっ」 「待て、夏目」 その時、春虎くんが夏目さんの言葉を遮った。 「前世の手下を頼るまでもねぇ。お前の仲間は今、ここに居るだろう」 そう言って、彼は爆風で打ち付けた身体を錫杖に寄りかかるように立ち上がる。 「何でも一人で背負い込もうとするな。お前を怖がる奴やお前に迷惑をかけられる奴がいたとしても、それでも力を貸してくれる奴は必ずいるっ」 彼の言葉に寄って、皆が立ち上がる。私も瓦礫の中から立ち上がり、口元についた血を拭った。 「だから他人と向き合え。勇気を持って俺たちを頼れ」 その言葉に夏目さんはどれだけ救われたのだろう。これまで自分の所為で皆を傷つけたと思っていた彼女が春虎くんの救いに寄って今、その勇気を奮った。 「僕の飛車丸になるって?」 「王っ」 「所詮は妄想だ!僕に飛車丸が居るとすれば、それは春虎だ!!現実の僕の式神は春虎だけだっ!!」 彼女の言葉には力があった。その力に、よって呪捜官に施した呪詛が発動する。彼は狂った赤子のように泣き叫びながら最後の令を放つ。 「角行鬼っ……そのガキを、そのガキをっ!ぶっ潰してやりなさいっ!!」 鬼が春虎くん目掛けて駆け寄る。 「頼むっ!!」 「白桜、黒楓」 京子の護法式が現れ鬼の足を狙い、動きを封じる。膝を折り床に手をついたその瞬間、天馬が護符を発動させる。 「雷気よ水気に流れうて、急急如律令」 隻腕のその腕に護符を発動させ崩れ落ちる鬼。そこをつかさず仮面目掛けて春虎くんは錫杖を振りかざし突き刺した。 仮面が崩れる落ちるその時、鬼の素顔が明らかとなる。目を護符で何者かによって封じられたただの鬼擬きだった。制御下に置いてあったその鬼は枷が外れ暴走を始める。呪捜官の手に負えなくなったようで彼は逃げ出す。その彼に気がつかれないように式を憑かせた。その後、私は暴れ出した鬼が夏目さんを攻撃するのを阻止するために、自身の血を風の呪術に寄って周囲に万栄させた。 『 おいで 』 甲種言霊も載せた二重の誘惑に、素直にこちらへ真っ直ぐやってくる鬼擬き。拳を振り上げて私目掛けて的確に振り下ろすが、それを避け、宙へ飛ぶ。地面へとめり込むその腕に乗り走り出す。 『ナウマク・サンマンダ・ソワカ』 身体を捩り排除にかかるその前に奴の頭に手をついて耳元で囁く詠唱。そのまま腕をバネにして再び後方へ跳ぶと、鬼は燃え上がる炎に寄り苦しみの嗚咽をあげた。 そのまま地面へ着地しようと降りれば鬼の足が飛んでくる。そう、私の方ではない。位置を把握して生徒たちがいない所で仕掛けたはずが、その足元には冬児がいた。 『冬児っ!!!』 私は自然と身体が動き彼へと手を伸ばした。彼の身体を掴みそのまま勢いよく後方へ押し出す。二人で壁に激突しながら攻撃を避けられた。 「いっ……」 頭を打ったのか顔をしかめる彼の頬を掴み私は顔を覗いた。 『大丈夫?!』 「あ、ああ…俺よりお前の方が」 『よ、よかった……』 頬を大粒の涙が伝う。私の香りに彼が反応したかもしれない。また私の所為で彼が、そう思ったけれど彼に酷い外傷はなかった。だから尚の事、安堵して涙が止まらなくなる。 「……」 呆然とする冬児が何かを口にする前に、私が引きつけた隙に夏目さんを奪還し呪縛を解いた春虎くんに支えられながら、龍を召喚していた。 「土御門の名において命じる。いでよ北斗!!我が敵を滅せよ!!」 彼の命令により北斗は炎に苦しむ弱ったその鬼を消滅させた。戦場の終焉を迎え、夏目さんはほっとしたように力が抜け、そのまま春虎くんに支えられる。 そんな彼らの周囲に集まる、天馬、京子たち。私たちもと立ち上がるといつまでも呆然としている冬児に手を差し伸ばした。 『行こう、阿刀くん』 「……ああ」 触れた彼の手は、驚く程力強くて逆に引っ張られる。体制を崩しそうになるもそれを意図も簡単に支えられてしまう。今度は引っ張られるようにして、彼らの元へ向かった。 京子に謝罪する夏目さん。それを微笑ましく眺めていると夏目さんは私に振り返った。 「水無瀬さん。ありがとう、僕を助けるために囮を」 『夏目くん、もう一人で抱え込まないでね』 「……うん」 君は私とは違うのだから………。 あの護符を手に取り冬児はこちらを見つめる。何かを思案するような表情で。 prev|next 戻る |