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「佐倉初子!この私と、決闘だ!」


それはある日の放課後のことだった。
私の目の前にいるのはサラリと髪を靡かせた、四年い組、平滝夜叉丸。私がいつものように木陰で昼寝をしようと寝転がってると、そいつはやって来た。


「おお、平。久しぶりだなあ。元気?」
「ええい慣れ慣れしい!今日という今日こそはお前に勝ってやる!」
「ふうん?」


よいねよいね。志の強い少年だ。そんな奴は嫌いではない、が、しかし、年上に対して礼儀がなっていない。こいつは目上の奴に対してはそんなことはないと聞いたが、私はどうやら違うらしい。そんな奴は、いじめたくなる。
私はよいしょ、と起き上がると平の目の前に、ずい、と立った。それも、まるで貴様よりも私が上だと言うかのように。


「相変わらずお前は美しいな」
「あ、当たり前だろう!貴様なんかより私の方がずっとウガッ」


美しいのだ!
言葉はこう続くはずだったに違いない。
しかし私はその言葉を待たずして平の顎を蹴りあげた。しかもあえて、わざと軽く、ほのかにじんと痺れる程度に。擬音語をつけるなら、コツン、だ。手加減された。そう認識させて、こいつの立派なプライドに傷をつける。
私なりのスキンシップで、完全に嫌がらせである。


「佐倉初子…っき、貴様…!」
「おいおい、初子先輩って可愛く呼べないのか?ん?」
「お前が私より上だなんて、私は認めないぞ!私の戦輪にかかればお前な」
「よおし平!私と鬼ごっこだ!」
「話を聞けぇえ!!!!」


平のイライラも募ってきたところで、私は平に背中を向けベシベシとケツを叩いてやった。鬼さんこちら。ってやつ。平は顔を真っ赤にして、まさに鬼の形相でこちらに走ってきた。私もそれに応じて逃げていく。四年には負けないよ。四年にはね。



(平くんと鬼さんこちら)

「おやまあ、また滝夜叉丸が初子先輩追いかけてる」
「ほら、なんだかんだあいつ、先輩にかまってちゃんなんだよな」
「先輩たのしそうだねぇ」