きっともうどうしようもない

18年。短い人生だったよ全く。
そりゃあね、そりゃあね、私はただの役立たずだったかもしれないよ?失敗ばっかりするし雑用だって満足にできない。でも、だからって、だからってこれはいくらなんでも酷すぎるよ城主様。


「まだ死にたくないよー!」
「やかましい!静かにしないか!!」
「ったく、こいつがおとり…いや、捨て駒だったとは…やられたよ」
「すっ!て、ごま……ひどい……」


そう、私は見捨てられた。ていうかみんなが逃げるために私は囮に使われたのだ。私はそんなことにも気づけなかったけど。なんか出陣前みんなが妙に優しいと思った。普段はお饅頭なんかくれないもん。それでまんまと捕まってしまって現在、手足を縛られた中尋問中である。しかもプロにもなってない忍たまたちに。もちろん職員の方もいらっしゃってるけど。


「痛いよ床冷たいよひもじいよー…」
「やかましいと言ってるだろバカタレ!」
「はは、きみのほーがうるさアダダダァッ!!」
「身の程が分かっていないようだな」
「どこの城の者だ?何が目的だ。どうして学園長を狙った」


頭を踏んづけられた。私が芋虫状態になってることをいいことに、やろう女になんて扱いしやがる!まあくノ一なんて女であってないようなものですけどねでも私雑魚だからすごく痛いんですけど!


「その問いにはお答えしかねます。第一私自身味方に騙されてたのに目的とか知るわけっわけな、な、うわあああん!」
「また泣き出した…」
「忍とは思えないな」


ため息まじりに、黒髪の綺麗なお姉さんが呟いた。い、いや、お姉さんかな、お兄さんかな。中性的でちょっと分かんないけど、そ、そうですよね、その言葉、何万何億回も聞きましたよ。どうせ私は忍らしくないよでも大体私って忍術教室を出たわけでもないし、父上が忍者だからとかそんな理由でくノ一になったわけだし。忍術とかなあ、独学なんだぞ!知らない武器だって沢山あるんだからな!とか威張れないよなまじで。もうどうしよう、死ぬ?私死ぬの?いやだ死にたくない。
ていうか私ほんと不憫じゃない。目的も知らされずに任務に駆り出されてあれよあれよという間にポイッだなんて。
涙は全然止まらなくて、私はそのせいでつまった鼻をずびずびと鳴らしていた。涙も垂れ流し。縛られてるから拭けもしない。


「不憫すぎる…私なんて死んだらいいん…ごめ、嘘ですだから苦無はしまって」
「……調子狂うな」
「よく言われます!」
「ああそうだろうな死ぬか?」


首に添えられる苦無。ひんやりと痛い。絶対皮膚裂けた。それでまたえんえん泣いているとお次は豪快な笑い声。女の子がこんなに泣きじゃくってるのに笑うとかどんだけ性格歪んでるんですか。でもそんなことを思ったのもつかの間、


「なあなあみんな、私、こいつは別に殺さなくていいと思うぞ!」
「なっ!」
「お前なに言って…!」


天使が現れたのだと思った。この場に不釣り合いな陽気な声に、人懐っこそうな表情。動物に例えるなら、まさに犬。そんな男の子が「すまん!この女が気に入ってしまった!」だなんて、大胆不敵にもそう言ったのだ。愛の告白か!場違いにも程があるようなことを考えて、すぐに私の小さな脳みそから削除させていただいた。こうやって油断させてグサリなんだろバレてんだよさすがの私もこれに騙されるほど馬鹿ではないぞ。


「山田先生、どうお考えですか」
「うむ…確かにこのくノ一単体では力もない。今の状況が演技というわけでもなさそうだ。本当に殺すつもりで置いていったのだろう」
「うわきっつ。ストレートに言いやがるぜって痛いわ踏むなクソガキ!」
「しかしこの能天気すぎるアホさ、危機感なんて感じていないようですよ」
「聞けこら!」
「私一人では判断しかねる。…学園長先生」


ドロン!いきなりの煙玉だった。もくもくと部屋を埋め尽くす煙は簡単に視界を奪うし、なにより噎せる。ゲホゲホと一人また違った涙を流していると次第に晴れてきた辺り。そしたらそこには先程まではいなかった、今回私の城が暗殺を目論んでいた相手、忍術学園の学園長、大川平次渦正が立っていた。


きっともうどうしようもない
もう諦めろと声がした