ちびっこにはしぬほどつよき

「どぅーも、こんにちは。噂の美女、夜子だよ」

こんにちはー!と期待していた明るいお返事はない。私は今、一年は組におじゃましている。
イケメン教師、土井先生が「挨拶くらいしなさい」と生徒に言ってくれたことにより、ちらりほらりと死にかけみたいな挨拶が返ってきた。私、めげない。

「今日のこの授業を見学することになっている。彼女を見極めるいい機会だ。一応プロの忍者だからわからないことがあれば質問をしなさい」

土井先生のありがたいお言葉に、先生!と1人が手を挙げた。見た目からも仕草からも優等生感が半端ない子だ。しかし、将来有望な顔をしている。いや、私にはそんな趣味は、な、ないのだけれど。

「その人は敵でしょう。これ以上に何を見極めることがあるんですか?」

なんともストレートな質問だった。私、めげちゃう。
その子の質問に周りの子たちも「そうだそうだ」なんて言っちゃって。本当、ここの生徒はクソガキ共ばっかりじゃねえか。本当気に食わんわ。

「庄左ヱ門、彼女は今は敵ではなく、事務員試験中の人だ。もしかしたらお前達のサポートをするかもしれない人物だ。先入観だけでなく、己の目で確かめることも必要だぞ」
「わかりました!」

土井先生、ほんとステキ…。魑魅魍魎の中に1人佇む仏だよ。さっさと魑魅魍魎を正しく導いてくれ給えよ。
なんてことを考えながらぼりぼり頭をかいているとゴホン!と咳払いがきこえた。

「では何か彼女に質問したいことはあるか?」

土井先生がそう言った途端、生徒が一斉にべちゃくちゃと喋り出した。誰が何を言っているのか全くわからないが、私語ではない。断片的に拾える言葉を聞くと私への質問内容だということは分かったが、なぜ一斉に喋ってるのだ。そしてなぜそれでもやつらはお構い無しに質問を続けているのだ。
最高に頭が悪そうな光景にドン引きしていると土井先生が「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げた。いやあなたが謝る必要は全くないのだけど。

「何歳ですか!30歳くらいですか!」
「ピチピチの18です」
「なんで忍者になったんですか!ていうかなんでなれたんですか!」
「父が忍者でそのコネで雇ってもらいました」
「なんでそんな顔なんですか!」
「何が言いたいクソおチビちゃん」
「なんでそんなに短足なんですか!」
「やかましいわ」
「なんでそんなに足がふと…」
「ちょっと土井先生ぃぃ!!?こいつらボコしてもいいですかねぇぇえ!!?」

気まずそうな顔して目をそらしてんじゃないよ土井!大人に対して敬意もクソもない質問…。許さん!

「お前ら全員とっつかまえてやる!」
「きゃー!!」

バタバタと悲鳴をあげながらは組の生徒共が教室から出ていく。その様を見て土井先生は「胃が痛い」とホロホロ泣いていた。
私はおかまいなしにクソガキちゃんたちを追いかけていく。つもりだったのだが駆けつけた忌まわしき山田父に頭をぶん殴られ私はその場で死ん…ではない。倒れた。


(ちびっこには死ぬほど強気)