やはりがまんするべきでした

根暗な一年ろ組。
ツンケンした二年生。
方向音痴の宝庫三年生。
キャラ濃すぎだろ四年生。
二年、三年はそれぞれクラス合同授業で一気に見れたものの、一年と四年は一クラスずつ授業を見たからあっという間に夕刻。本日の授業は全て終わった。
一年ろ組なんて攻撃的ではなかったけど雰囲気やばすぎて授業全部寝ちゃったし二年の授業も変な恥ずかしがり屋のオヤジのおかげで何をしたかも覚えていない。(生徒は私のことを無視していた。)三年の実習なんて左門が消えたとか言うから探して、おまけに次屋君とかいうニュー方向音痴も駆けずり回って探した。二人を抱えて戻った時は拍手が起こったものだ。こないだすれ違った富松くんにもお礼を言われて鼻が高い。「騙されるな!」とか言って石を投げてきたやつもいるけど。
四年生はいかに自分が優れているのか、いかに私という存在が愚かしいのかを延々と語られるししまいにはタカ丸とかいうガキに髪の毛をヘンテコにさせられた。これはまともにするのにかなり時間がかかった。

「もう無理。もう動けない」

それは夜中。気絶するように眠っていた私は尿意で目が覚めた。だけど全身の倦怠感と筋肉痛で、とてつもなく動くことが億劫になっていた。布団の中でもぞもぞして、尿意を忘れてまた再び寝ようかと思ったけど、ちょ、これは無理。この年でおもらしなんてさすがに笑われもしない。
諦めて布団から這い出て、自分の部屋の襖をあけた。
まあ、なんと
今日は満月だったのか。妙に明るく大きな月をみて、思わず、ため息がこぼれた。

「おい」

その時、突然声をかけられ、ビクッと肩がはねる。やばっ、チョビ漏れした。

「え…」

振り返るとそこには、潮江くんと、七松くんと、あと初日に見ただろうか、数人の、男の子。そして山田の親父先生に、今朝見たばかりの厚着太逸先生。
ひゅ、と喉が鳴る。そして私の指先はぶるぶると震える。恐怖、を感じている。

「なんで、そんなに血だらけ?」

震える声で、なんとか言葉を絞り出した。
恐らく、生徒。潮江くんや七松くんたちの装束の間から見える肌には、べっとりと真っ赤な血がついていた。きっと暗い色で分からないだけで、装束にもついているだろう。
七松くんなんて血で真っ赤な顔で、ニコニコ笑ってて、正直、気味が悪い。

「ツキヨタケ城を落城させた」
「え…?」

山田の親父が放った言葉に、足がぐらつく。
えっと、えっと、
なんと言って良いものか。私はよろけながら次の言葉を考える。

「えっと、、、お、おしっこ、、行ってきます…」

我慢の限界だった。
何人かその場でずっこけて何人かクソでかいため息をついて潮江くんには首根っこを掴まれそのまま厠に放り込まれた。その衝撃でまた少し漏れた。
え、えー、落城って、どういうこっちゃ。
城主様、死んだってこと?
てかどうして私の城知ってるの?なんで、私言ってない、一言も言ってない。
そこでハッと思い出す。
昨日だ。
昨日山田が来た時だ。
あいつ、私を押し倒しながら城の名を言った!!

「や、山田ァァァ!!!」

しっかり尿を出し切り大きい音を立てながら厠の扉をあける。
その扉のすぐそこには生徒とは対照的に血ひとつつけていない、山田利吉が、ニッコリと笑いながら立っていた。

「漸く気づいたのか」
「てめえ!!やっぱ潰す!!」
「はは、できないくせに」

やはりあなたは、忍びには向いていない
認めたくはないがクソ綺麗な声で、山田はそう言うと、私の意識はぶつりと途絶える。
恐ろしい手刀。私が見切れるわけがないだろ。


(やっぱり我慢するべきでした)
おしっこのはなし