手のぬくもり

踏み鋤が握りにくいからと手袋をしないでいたら指先がすっかり冷えきってしまった。穴の中は風が通らないとはいえ、外気温が低すぎて手を開いたり閉じたりしてみたが、動きが鈍く、指にうまく力が入らない。やっぱり手袋をしてくるべきだったか。とにかくこのままでは穴掘りを続けられない。一度暖を取ってから出直そうと思い掘りかけの穴から頭を出した。北風が顔を刺す。

「喜八郎!」

声が後ろから聞こえたので振り替えると倉庫にに向かっている途中だったのか、生首フィギュアを抱えた立花先輩が目を丸くしてこちらを見ていた。

「立花先輩」
「こんな寒いのにまた穴を掘っていたのか」

穴から出て先輩のもとに駆け寄った。すると先輩が眉を潜めた。

「鼻と耳が真っ赤じゃないか。穴掘りを辞めろと言うつもりはないが冷えると体に良くないぞ」
「はぁーい」
「もしかして手袋もしていなかったのか」
「まあ、邪魔なんで」
「…先輩、」
「ん?」

僕は握っていた踏み鋤を丁寧に地べたに置くと両手を先輩に向けて差し出した。

「暖めてください」
「……しょうがない奴だな」

立花先輩は「中に入ればいいだろう」みたいなことを言わない。いつも僕の望みを分かっていて、それを受け入れてくれる。僕の穴掘りを止めたこともない。
生首フィギュアを地面に下ろした先輩が僕の差し出した手を取り、手の甲を隠すように包み込んだ。やんわりと伝わってくる熱が心地よい。先輩の手は僕の手より少し大きくて厚みが無い。そして指が細く長い。爪が丁寧に切り揃えられていて女の人の手みたいだ。それでも手の平は固くしっかりしている。僕は先輩の手がお気にいりというか、何て言うか、好きだ。

「先輩の手は暖かいですね」
「さっきまで室内にいたからな。逆にお前の手は冷えすぎだ。どれ、」

先輩は顔を手に近付けると、大きく息を吐いた。手の平よりも熱を持った白い空気が僕の手を撫でた。なぜだかいけないことをしているみたいで、自分の鼓動が速くなるのを感じた。しばらく先輩は僕の手を擦ったり、握ったり、息を吹き掛けたりしてなんとか暖めようとしてくれた。

「ありがとうございます立花先輩」

お陰でまた指が自由に動くようになった。踏み鋤を握ってみてもしっかり力が入る。

「全く、次はやってやらないからな」
「そんなぁ」

立花先輩はやらないと言っても、頼めばまたやってくれることを僕は知っている。先輩は後輩に優しすぎるところがあると思う。昔滝夜叉丸に「お前は立花先輩に甘えすぎだ」と注意されたことがあるけれど、本当にその通りで、いつも先輩の優しさに甘えてしまう。

「今日はもっと冷え込むぞ。早めに中に戻るように」
「わかりました」

立花先輩は生首フィギュアを拾い上げると颯爽と立ち去ってしまった。僕は先輩の後ろ姿を見つめ、そして、今日は良い穴が掘れそうだと思うのであった。