アメリカのニューヨークシティ。わざわざそんな所まで出向いたその男は、苛立ちを隠そうともせずに案内された席に音を立ててドカりと座り込んだ。所謂闇市場と呼ばれるこの場所には、反社会的勢力と呼ばれるような人間やヤのつく職業にマフィア、他にもカタギではあるが大企業の社長に創業者、投資家だのどこの国だか分からん大富豪など、少し席は離れているものの男の視界に入るあのターバン頭は石油王と目を付けてもいいだろう。とにかく金を持つ人間がごまんと集まっていた。
程なくして会場は暗転し、センターステージらしき登壇上のような場所に立つ男にスポットライトが当てられる。無精髭を丁寧にスタイリングしたんだろうな、と見て取れる身だしなみの良い男は腕を広げ、この会場に集まる人間に語りかけるよう腹から声を出した。
挨拶は程々に本日の目玉商品だの希少価値など、ベラベラと口を回し続ける司会者に男の額には青筋が浮かんでは増えてゆく。早くしろよ、と遂に貧乏ゆすりを始めた頃、ロット番号を叫んだ司会者からスポットライトが外れ、舞台袖から現れた豪奢な白のワンピースに身を包んだ女が照らされると、俯いたままでもわかるその美貌、カリスマ性、儚さにその場の全員が魅了される。
一瞬の静寂を挟み、やがてドッと会場が湧いた。
「ロット番号 001! ミョウジの血筋を直結で引いている最優秀作品! 一切の穢れはありません! 本日の目玉、メインのロットです!!」
「ロット001、よろしいでしょうか! 準備が整いましたら始めますが、よろしいですね?」
「それではロット001、こちらは1000と500万円からあります!」
司会者がそういうや否や、どこからともなく声が発せられる。2000、2500、3000、と順調に上がっている値段は止まることを知らず、ぐんぐんと伸びるそれは少し目を離した隙に1億3000万円まで登った。その金額の大きさに、誰もがままごとやお巫山戯では無いと実感させられた。
「1億3000万円! よろしいですか? 1億3000万円! 本当におられませんか?」
司会者の煽りに乗せられたどこの誰だか知らない金持ちが思い切ったふうに1億5000万円の値を言う。これで決まりか、と言うような場の空気が漂う中、客席の中心、今まで一言も口を開かなかった男がおもむろにポケットに突っ込んでいた手を出し、札を上げながら気だるげに声を出した。
「2億……や、3億だ。オレがその女に3億出す。」
男は言う。なんの感情も乗らない声だった。
衝撃の金額に誰も口を挟めず、先程まで煽りに煽っていた司会者もドン引いた表情で男を見つめる。ロット番号001、白いワンピースを着た女はその男を見上げ、分かりやすく目を見開いた。
「聞こえなかったか? もう一度言う、3億だ。」
「…………さッッ!?! 3億円! 3億円出ました!!」
その金額に誰もが口を噤み、どよめきの末に会場に静寂が訪れる。ハンマープライス!ついにその言葉と共にハンマーを打ち付ける音がが響きわたり、馬鹿みたいに大きな液晶画面にはロット番号0001の女の顔写真と共に300000000円の文字が照らされている。
色白の節だった綺麗な指を3本立てて、その男、灰谷竜胆は笑ったと言う。