そんなこんなで朝がきた。私としてはまだまだぬくぬくお布団にくるまっていたかったが、朝に強いスパルタ軍人御一行は早速出発するらしい。ヘンケとエノノカはここの集落に住んでいることからしててっきり今日でお別れかと思っていたのだが、少尉は彼らを雇って移動手段にすることにしたらしい。たくさんのわんこ達が先導する犬ゾリに乗って、思いっきり叫ぶ。トホ、トホ、トー!
二台あるうちの先頭のソリに乗って、右に左にと障害物を避けながら進むこと数時間。なにやらいくつか建物が見えてきた。ひとまず立ち寄ることにして、近くにいた人に話を伺う。エノノカが聞いた話だと、なにやらアイヌの女の子と三人の男がこの村の話を聞きに来たらしい。そんなこの村には村唯一の酒場があるらしく、早速の聞き込み調査である。なんだか刑事ドラマみたいでワクワクする。あまりにも情景が雪山であるが。着いていく気満々の私を振り返った少尉が見下ろし、残酷な命令を下した。
「ナマエ、お前はここで犬たちと待っていろ」
「えっ、吾輩も聞き込み調査したいであります」
「……」
「リュウと遊んでくるね……」
ムキムキ四人衆とチカパシは貫禄を漂わせながら酒場に入っていく。チカパシは良くて私がダメな理由ってなんなんだ……。一方の私たち女子供とおじいちゃんはわんこと戯れる時間だ。エノノカとヘンケはここに住んでいるらしいロシア人と談笑している。私はリュウに夢中で蚊帳の外である。
リュウは柴犬なのかな?かわいいね、ずっとみんなと一緒にいるの?かわいいね、かわいいねぇ、と顎の下をくすぐりまくる。猟犬らしいが、猟犬とは思えないほどリラックスしていた。警戒心などかなぐり捨てて早速ヘソ天である。ワシャワシャ腹を撫でていると、エノノカが大きな声を出した。
「あーー!! ロシア人に犬盗られた!!」
「え、いつ!?」
あわてて犬の数を数える。ひい、ふう、みい……あ、頭に飾りを着けた先頭のリーダー犬が居ない!!縋るように酒場の方を見るとタイミングよく四人が出てきたところで、エノノカと二人で駆け寄る。
「はあ、はあ……!」
「ん? ナマエ、エノノカ、どうしたー!?」
「犬! 犬が!!」
「犬、盗られたー!!!」
ぎょ、と5人の顔が強ばる。私がリュウのヘソ天に夢中になってる間にエノノカがめちゃくちゃ喋るお喋りロシア人に話しかけられたらしく、そのまま気付かずに別のロシア人に先頭の犬、イソホセタが取られたのだと事のあらましを説明した。説明を全て幼いエノノカに任せ、私はと言うと「犬が!」と走りながら叫んだだけである。杉元がちらりと私を見た。
「ナマエさんは何をしていたんだ……」
「ほんとに……おっしゃる通りでぇ……」
「あ!! お喋りロシア人だ!」
いや、暴力沙汰にならなくて良かった。呆れた杉元になじられる私を見かねて少尉がそう言いながら、何故か慰めるように背中をさすってくれる。最早全く戦力として見られていない。もとよりなんの役にも立たないと見積もられていたが、今この瞬間戦力外通告されたことは何となくわかった。少尉の優しさが痛い……。
そんな話をしていると背後からお喋りロシア人が歩いてきていたらしい。エノノカの声で全員の視線がお喋りロシア人に寄せられる。ボソボソと話すロシア語が聞こえた。
「着いてこいってことか……」
「危険だ。俺たち四人で行くから、今度こそ3人のこと頼んだよ、ナマエさん」
「ハイ精一杯務めさせていただきます」
「頼むから大人しく宿で飯の準備でもしててくれ」
あまりの過保護ぶりである。少尉の言いつけをそのまま聞いて食料調達を済ませて小さな宿に宿泊した。宿代が先払いだといけないからと少尉の財布を預かったが、あまりにも危機感がなさすぎやしないか。私が悪い人だったら中身全部抜いて捨てられちゃうところだったよ。
ふと宿の窓から外を見る。犬を取られたばかりではあるが、宿に犬を連れてくることは叶わないため外に繋ぐ他ないのだ。リュウたちを眺めてため息をついた。どうか居なくならないでね……かわい子ちゃんたち……。
暫くして軍人ズが帰ってきた。なぜか闘気がだだ漏れで、誰か殴ってきた?と思わず聞いてしまうほど。杉元からはよくわかったね、と言われたが軍曹には知らなくていいと返されてしまった。大勝利に終わったのか少尉はご満悦であられるようだ。彼らがなにやら大乱闘を繰り広げている間、この辺りの売店で買った食材を有り合わせのような形でエノノカ、ヘンケと一緒に料理を作ってみたのだが戦闘後であるらしい彼らは全て平らげた上で明日も戦うんだぞもっと出せと宣う。さながらアスリートである。私とエノノカが食べきれなかった鹿肉を出したら喜んで食べていた。いい筋肉になるに違いない。