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こんのすけが付いてるから大怪我はしないだろうと思ってた。だって逆にアイツがついててどう怪我するんだよ、アイツ今まで同じような仕事してきたとかじゃねぇの?アタシが初めて担当した審神者とかじゃねぇだろ?
まぁ、とにかくこんのすけがついてるからって理由で安心はしてたんだ。してたんだけど────…。

「……は?」

過去へ飛ばす力とやらを蜂須賀虎徹に渡し、こんのすけと一緒に戦場に向かうのを見届け、自分は本丸で待機してた。さっきも言った通り、大怪我を負って帰ってくる事はないだろって思ってた。
でも目の前に広がる光景は、蜂須賀虎徹がボロボロになった姿で、それを見て呆然としてるアタシに対してこんのすけは淡々と告げる。

「初陣にしてはさすがだったと思います。ですが見た通り蜂須賀虎徹が重傷を負ってしまったので今すぐ手入れ部屋に向かいましょう」
「て、いれべや…」
「はい、手入れ部屋はこちらになります」

そのままこんのすけは廊下へ行ってしまい、蜂須賀虎徹もその後を付いていく。
動かなきゃ、だけど。
どういう顔をしたらいいのか、どういう言葉をかけたらいいのかわからない。
つーかこんなボロボロで初陣にしてはさすがってなんだよ、馬鹿にしてんだろ。

「手入れ部屋はこちらになります。普段は重傷になると随分と時間がかかってしまうのですが、今回はこの手伝い札という物を使って────…」
「…アタシが、やる」

こんのすけの言葉を遮り、手入れ道具らしき物を奪って蜂須賀虎徹の目の前に座った。その行動に驚いたのか、蜂須賀虎徹とこんのすけは目を見開いてアタシを見つめる。

「主?何を」
「…いいから、手だせ」
「でも、」
「うるせぇ!いいからやらせろ!」

そう叫ぶと、驚いたのか何なのか何も言わなくなった。さっきまで傷一つ無かった綺麗な手は、赤黒い血が付いていて、見ていて決して気分の良くなる物じゃない。

殴った痕や、蹴られた後の傷痕じゃなくて、これは刃物で傷つけられた傷。
そうか、こいつは刀何だよな。こいつは傷付ける道具…で…。
でも、手に触れるとあったかいし生きてる、ちゃんと話せるし、今は人の形をしてる。

「…なぁ、人の形してるって事は、痛みとかちゃんと感じるんだよな?」

そう尋ねれば、当たり前と言ったようにこんのすけが頷く。…ならこの怪我はすっげぇ痛かったんだろうな。
別に会って数時間もしねぇやつに同情とかそんなんじゃないけど、誰だって痛い思いはしたくねぇし、して欲しくない。
これからこいつの主になるなら尚更だ。

「蜂須賀虎徹…いや、蜂須賀。」
「…どうした主?」
「初っ端からこんなダメな主で悪いんだけどさ、頼むから、怪我はなるべくしないで帰ってきて欲しい」

歴史修正主義者から守る為に刀剣男士を送り込み、時を遡る。
刀に傷つくなとか馬鹿な事言ってるよなぁ。それに立場上これはあんま言っちゃいけないような気もすっけど。

「他にルールとかは作らねぇ、とにかく無茶して進まねぇ事とか、とりあえずその…」

お願いします、と小声で言えば暫くの静寂が走り、なんとも言えない空気に包まれた。
やっぱアタシこれヤバイ事言ったか?審神者一日目にしておろされるか?クビか?
最悪の展開を考えてビクビクしていると、蜂須賀が肩を震わせだした。
え、何だいきなり待って、キレてる?ひょっとしてキレてる?

「は、蜂須賀?もしかして呼び捨てがダメだった?それとも傷ついて帰ってくるなとか馬鹿にしてんのかって思った?なら謝────」
「ふっあはははは!!」
「…………え?」

キレてるかと不安になって近づいたのに、帰ってきたのは笑い声だった。
なんで笑ってんだ、どこに笑う要素があったんだよ。

「す、すまない主………いや、凄く変な事を言う主だなと思ってしまって…ふふ」
「笑うと包帯きつく結ぶぞオラ」
「それは痛いから勘弁して欲しいな…」

未だに肩を震わせている蜂須賀にイラッとしつつ手当を地味に進めていく。あれ、そういえばなんか最初の緊張消えた気がする、何でだ?大怪我見て色々吹っ飛んだのか?

「…主」

蜂須賀に呼ばれ、視線だけそちらに向ける。
すると蜂須賀は手当てしているアタシの腕をつかみ、膝をついて何故か跪く体制になった。
待てなんだこれ。

「この蜂須賀虎徹、虎徹の真作として貴女に力を貸そう。」

そのまま流れるような動作で手の甲にキス、を……………!?

「うわぁぁぁぁ!?まっ、なにしやがっ、きす、キス!?」
「あははっ、慌てっぷりが凄いな主は。口にしたわけじゃないんだから、そんな気にする必要無いだろう?」

いや確かに口じゃねぇけど!!手の甲でもなんかアレだろ!


キスで全部持ってかれていたが、蜂須賀はどうやらアタシに力を貸してくれるらしい。何だろう、審神者としての第1歩を踏み出せた気分だ、よくわからねぇけど。
そしてさっきの会話の間放置されていたこんのすけは寝ていた。寝てんじゃねぇよこいつ。



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