花散る季節に恋をして
「名字さんが好きです。付き合ってください。」
「……へ?」
背の大きな先輩に突然告白された。
頬に熱が集まるのを感じるけど、それよりもただ驚いた顔で目の前の先輩を見上げる。
確かだけど、この人はバレー部の人だったと記憶している。入学してから間もないけど、白鳥沢はバレー部が強いんだよ〜という友達の情報と、その友達にバレー部の練習見ようよ引きずられた時にこの人を見かけた記憶がある。あるってだけだから確信は出来ないけど…。
でもそれでもとにかく、何でこの人は1年生、しかも私なんかに告白しているんだろう…?
「あ、あの。」
「ん?」
「まず、その、お名前は…?」
「えっそこからなの。」
「えっ逆に何故そこからではないと。」
すみません私からは初対面ですから…、と返せばそっか、と大して表情を変えずにその人は頷く。
この人はあんまり表情変わらないんだなぁ……さっき告白された時も無表情だったような…。あれ?ひょっとしてからかわれて、
「からかってないからね。」
読まれてる。
「んー…それじゃあとりあえず、俺は川西太一。バレー部に入ってます、2年5組で好きな食べ物はすきやきです。」
「ご、ご丁寧にどうも…。えと…川西先輩はさっき言ってたこと冗談では…?」
「ないけど。」
「そうですか…。」
まだ季節は春、そして4月だ。なんで川西先輩が私を好きになったのか皆目検討もつかない…。一目惚れされた!?とか思うほど特に可愛い顔立ちでもなく普通の顔立ちだし、そんなに自信はない。つまり意味がわからない…。
でもずっと黙ってるわけにもいかないし、川西先輩だって昼休みずっと私に時間を使うわけにもいかないだろう。お腹も空くし…、というより私がすいてる…。
「た、単刀直入に聞きます。」
「どうぞ。」
考え込んでいた顔を再び川西先輩に向けて、きちんと向き合った体制で話を切り出した。
「川西先輩は何故私に告白を…?あっ、いえ好きですとは言われましたけど、その、理由を…。」
「一目惚れ。」
「……え?」
「名字さんに俺は一目惚れしました。」
ありえないと思って切り捨てていた選択が正解だったみたいだ、待って。え?
あまりにも普通のように放たれた言葉は私を動揺させるのには充分で、思考回路が停止してしまう。
昼休みの残り時間もあまりない、それにまず私は川西先輩に告白をされたんだ。お返事しなきゃ、しなきゃ…。どうやって?
正直に言って私は川西先輩の事をさっき言われた事以外ほぼ知らない。あとは私にひ、一目惚れをしたという事だけ。それで付き合えるかどうかと聞かれたら…でも悪い人じゃないし、でも…。そもそもこの考えってかなり上から目線では?あれ?
「……あのー名字さーん?」
「あっすみませ、へ、返事ですよね!えっと、」
まとまらない考えのままおもむろに返事をしようとした途端、昼休み終了のチャイムが鳴り出した。えっ待ってお昼食べてないし返事もしてない!
「あー、終わっちゃったね。」
「ご、ごめんなさい!!私なんかに川西先輩の貴重なお昼休みを使ってしまって…!」
「なんかにって、呼び出したのは俺だから。……返事困ったでしょ、ごめん。」
「川西先輩が謝ることじゃ…。」
どことなく落ち込んだような表情をした川西先輩を見て、何故か胸が痛む。
あれ?なんで痛むの?
何故か感じた痛みに考えを巡らせようとすると、川西先輩がこちらに一歩踏み出してきた。
どうしたんだろう、と見上げればまた一歩、また一歩と近づいてくる。え?なんで?
混乱しながら川西先輩が近づいて来る度に後ずさるも、背後には見事に壁しかなくて逃げ道がなくなってしまった。前を再び見上げれば私を見下ろしてくる川西先輩。…壁に手をつけてるこの体制って、その少女漫画でよくある壁ドンってやつでは…!?というより川西先輩の顔が凄く近づいてきていて何で何で!?
驚きすぎて心臓が酷く動いているし顔もすごく真っ赤な気がする。
「…今は返事貰えてないけど、絶対首を縦に振らせるから。」
「へ、」
「だから、覚悟しといてよ。名前ちゃん。」
まぁ話すの初めてだったしね、と続けて川西先輩は壁から手を離し、同時に私からも離れて歩き出していた。
心臓が、酷くうるさい。
さっきの川西先輩の声が、言葉が、頭から離れない。
「あっ、そうだ名前ちゃん。」
「はひっ!?」
歩き出したと思ったらまた立ち止まってこちらを振り向いていた。
その顔はさっきまで見せていた無表情ではなく、少しだけ意地の悪いような笑顔を浮かべながら、
「これからよろしくね。」
そう私に向かって言った。
それは、その、どういう意味なのだろう。覚悟しといてよ、の意味と同じなのかな。
どちらにせよ、
「心臓が、破裂しそう…。」
覚悟しなくてもひょっとしてもう、川西先輩の事…。
いや、いやいやいや、単純すぎるから。……だめだ、とにかく教室に戻らないと…。
足取りが多少おぼつかなかったけど、なんとか教室に戻るべく私はその場を歩いて行った。
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