及川さんとマネージャー
バレーをしてるあの人が、心底かっこいいと思ったんだ。
普段からかっこいいけど、そうじゃなくて、普段とは一切違う表情とかそういう所。中学の頃からずっとずっと見てきた。
及川先輩のバレーを近くで見たくて、同じ高校に来て、バレー部のマネージャーを希望して…って傍から見たらストーカーっぽいな…と、自分の行動に苦笑いしそうになる。でもきっと及川先輩は私の事を深く覚えてはいないけれど。
バレーをしてるあの人がかっこよくて、好きだった。チームの事を見ていて、考えていて、そして勝たせようとしてるあの人が。
付き合いたいとかそういうのじゃなくて、ただ見れれば嬉しかった。私もバレー部の一員として少しでも支えられていたらと思ってた。
でも、2年間なんてすぐに過ぎ去ってしまうものだ。
今年は青城は烏野に負けて、春高へは行けなかった。
そう淡々と事実を語れば数文字で終わってしまうけれど、実際は凄く苦くて、苦しくて、凄く悔しい。
「……見たかったなぁ、まだ。」
上を見上げればもう暗い空。
もう家に帰るべきだけど、どうにも帰る気分になれなくて、知ってる道をずっとウロウロしている。
正直すごく寒い。そして泣いてしまったから目が痛い。
「…そろそろお母さんに怒られちゃうかも…。」
「そうだね、主将も怒るかな。」
「!?」
突然後から聞き覚えのある声がして、驚いて振り返った先には、今まで考えていた人物がいて、さらに驚いて考えがうまくまとまらない。
「…お、いかわ…先輩…なんでここに…」
「いつもと真逆の方向に帰っていくマネージャーちゃんをたまたま思い出して、気が向いて来たらたまたまマネージャーちゃんがいただけかな」
「それはたまたまとは言わないんじゃ…?」
そもそも及川先輩は、自分がいつも帰る方向を覚えてたんだ…と変な関心をしてしまった。でも毎日少しでも見てれば気づくのかな?でも私が寄り道してから帰るとかそういう考えは無かったのかな…?そもそもラーメン屋さんから出たはずだからいつもと違うし…?
ぐるぐる私が考えても分かるはずがなく、かと言って特に話を切り出せる私でもなく、及川先輩から何か言ってくるわけでもなく………といった感じでしばらく静寂が続いた。
「帰れば?もう遅いよ。」
次に口を開いたのは、及川先輩だった。
「…そうしたいんですけど…何でか、帰る気になれないんです。」
家に帰って、1人になる時間が凄く怖い。
さっきも充分泣いたけれど、気持ちは全く晴れないし、まだ凄く胸が苦しい。
及川先輩が何故か見れなくて、俯いてしまう。
「…悔しい?」
「……は、い。」
でも、私より悔しいのは及川先輩のはずで、でも、でも私は────…。
顔を上げて、及川先輩を見上げた。この言葉は、及川先輩の顔を見て言いたい。
「及川先輩のバレー、もっと、見たかった…です。」
何よりも、バレーをしている及川先輩が好きだった。
かっこいいと思った、すごく素敵だと思った。
勿論今でも、凄く好き。
もう近くでは見れないのだと、そんな事実が頭のなかを過ぎる。
再び目頭が熱くなり、様々な思いがこみ上げてくる。
「────…及川先輩が、すきです。」
気づいたら、そんな言葉が零れていた。
目の前には驚いた顔をした及川先輩がいて、その目には、ひどい顔をした私がうつっている。
付き合いたいとか、そういうのじゃないんです、及川先輩。
むしろ振ってくれたら、私は少しだけ気持ちがスッキリするかもしれないんです。
ごめんなさい、自分勝手な考えで。でも、貴方が卒業してしまう前に、気持ちだけ伝えたかった。
「…すみません、返事は、いらないです…。」
それだけ伝えて、私は家の方向に走った。
追いかけてくるような声も、足音もしなくて、ひとり勝手に安心する。
そもそも、及川先輩に告白する子はよくいるんだし、私もその中の1人だ。それだけなんだ。
自分勝手な行動をして、ごめんなさい。及川先輩、好きでした。
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