「ペンギン?へ?なんで?」
「お前……どうしてグランドラインにいる」


 とある島に寄港し、のんびりとログが溜まるまで買い物に出ていたら、知った顔と出会った。
 彼女も驚いたようで、その手にはおよそ女性が持つ量ではない本を抱えて、俺を見ている。
 腕にぶら下げている袋には海図を書くのだろう、真新しい羊皮紙。さらに何が入っているのか、重そうに垂れたそれは、彼女の腕に食い込んでいた。


「島を出たのよ。海図を書きながら旅をしてるの」
「一人でか?やめておけとあれほど……」
「ペンギンが私を置いて行っちゃうからよ」


 意地悪く笑って言ってみせる彼女は、同じ島で育った幼馴染だった。
 幼い頃は一緒に海図を書いたり、航海術を学んだり……あぁ、そんな思い出しかない。
 俺が島を出る時に、一緒に連れていってと泣いて頼んだ彼女は、記憶より随分大人っぽくなった気がする。


「探索船に乗っているのか?」
「ん〜色々よ。探索船や商船だったり……海賊船に乗ったり」
「な?!危険にも程があるぞ!相変わらず無茶ばかりだな」
「海賊のペンギンに言われたくないわ」


 そう言われるとグゥの音も出ない。
 彼女は重そうに、よいしょっと荷物を抱えなおした。

 真っ白だった腕は日焼けし、よく見るとすり傷や切り傷の跡が多く見える。
 俺は思わず彼女の荷物を取り上げた。


「か、返して!帰れって言われても帰らないからね!」
「そうだろうな。お前馬鹿だからな」
「なっ!そんなこと言って、どうせペンギンも変わらないんでしょ!私が片付けてあげないと海図と本で部屋めっちゃくちゃで……」
「寝る場所くらいはまだあるがな」


 荷物を抱えたまま、くるりと港の方を向く。
 彼女は「どこにいくの」と慌てて俺の服の裾を掴んだ。

 あぁ、デジャヴっていうのはこういうことを言うんだろうか。


「部屋を片付けてくれるんだろ?」
「は?!」
「海賊船に乗る勇気があるんならな」
「……っ!乗せてくれるの?!ペンギンと一緒に……!」
「船長に直談判でもしてくれ」


 あの時と違う、溢れんばかりの笑顔を見せる彼女。
 何も変わらない君が、急に目の前に現れた。
 俺の中に眠っていた感情も、何も変わっていないことに苦笑した。

 




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