「スモーカー!懸賞金!早く!」
「……また借金か」
「違うわ、勝負に負けたのよ」
「金の上でのだろ」


 執務室でおれを待ち構えていたのは、数枚の手配書を握り締めた女。
 大のギャンブル好きなのは結構だが、その軍資金を海賊狩りを行うことで賄っている。
 とんだ自転車操業もあったものだと毎回思うが、この女はそんなことを気にもしていない。


「おれに言うな。そういう事務的なことはたしぎに言えと言ってるだろ」
「たしぎちゃん、いないんだもん」
「じゃあまた明日くるんだな」
「明日も休みなのたしぎちゃん!……じゃあスモーカー、私を一晩買って」
「……テメェ、そんなことまでやってんのか」
「冗談よ」


 手をひらひらと振り、ソファに飛び込んで、どうしようと唸りだした。
 長期遠征から帰ってきたばかりのおれを労うとか、そういうのはこいつの脳ミソにはないんだろうな。
 仕方なしに自分でコーヒーを用意し始めると、「私も―」とかいう声が飛んでくる。

 おれをこんなぞんざいに扱えるのは、この女くらいだとため息が出た。


「で、いくらなんだ。今回は」
「200万ベリーくらい……」
「一晩で身売って稼げる額か、馬鹿」
「それは冗談だって……あああでも本当どうしよう……」


 目の前にアイスコーヒーを置いてやり、向かいのソファに座る。
 云々と唸っていた女は、コーヒーの入ったグラスを取り小さく礼を言うと、ごくごくと一気に飲み干した。まるで酒だ。

 よくこうやって泣きついてくることはあるが、金を貸せとは言ってきたことがない。
 まぁこいつなら金を用意できるだけの腕ももちろんあるし、支払日にやってくる借金取りから、少しだけ逃げるなんて簡単なことだろう。
 かといって支払いを踏み倒したことは一度もないらしい。そういう所は律儀だ。


「買ってやろうか?200万ベリーで」
「え、その話まだ続くの?」


 冗談だというくせに何故そこで考える素振りを見せる。
 本当にいつか身売りでもしそうだな、と思うと、何故か面白くなかった。


「明日は早く終わるからよ、酒でも付き合え。その時までに懸賞金を手配しておいてやる」
「ほんと!?スモーカーの奢りよね!」
「稼いだ金があるだろ」
「鬼!」


 それでも女は嬉しそうに、ソファの上で飛び跳ねて、あろうことかおれに飛びついてきた。
 思わず持っていたホットコーヒーを溢しそうになる。


「あぶねぇな!」
「やっぱりさすがスモーカーね!大好き!」
「ああ、そうかよ」
「じゃあまた明日くるね!」


 それだけ言うと、風の様に部屋を飛び出していった。随分と適当なことを言いやがる。

 もう海賊狩りなんてやめて、海軍に属せば安定した収入があるのに……と以前たしぎに説得されていたことがあった。
 あんなギャンブル好きの海兵がいてたまるか。


「仕事増やしやがって」


 あいつが残していった手配書を手に取って、何度目かのため息をついた。

 




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