「お前な……おれにこんな面倒かけさせやがって」
「うう、ごめんなさ……うううう……」


 町の片隅にひっそりと闇が息づく時間。
 僅かな街灯の灯りに照らされながら、私はあろうことか船長に肩を借りて歩いていた。
 頭がくらくらとして、足元がおぼつかない。

 原因は私がお水と間違えて、かなり強い度数のアルコールを飲んでしまったから。そんな間違いなんていつもはしないのに、勢いよく流したお酒は、咽を焼くようにして身体に吸収されていった。

 もういっそそのまま放置してくれたらいいのに、皆はイキイキと夜の世界に飛び出していってしまって。
 最後までいた船長が、私を酒場から連れ出してくれて今に至るのである。


「せんちょ……能力で、お酒、抜いたりできないんですか……」
「そんなことで能力使えるか」
「うぅ、辛い……です……」


 呆れてしまう船長に申し訳なくて、穴があったら入ってしまいたい。というか実はもう歩いているのも辛いのだけれど、そんなこと言えるわけがない。
 何とか気力を振り絞り、目を見開いて足を動かした。

 ……が。そんなやせ我慢など船長には通用しなくて。
 次にふらついた瞬間に、船長に倒れてしまい、抱きこまれてしまった。


「ふわっせ、せんちょっ、ご、ごめんなさっ」
「背負ってやろうか。その方が早ぇだろ」
「いいいいえっいえ、そんなめっそうもない」
「声出すと目回るぞ」
「ふぇえ……」


 全くその通りで、ぐるぐると目の前が周り、私は船長の肩に倒れこんだ。
 情けない……。こんな迷惑なんてかけたくなかったなぁと思うと、じんわりと涙までにじんだ。


「……酒、抜いてやろうか?」
「できることなら、ぜひお願いしたいです……」
「お前、何でそんな下手なんだよ」
「恰好悪い、から……」
「そりゃそうだろな」


 船長に腰を支えられて、上を向かされる。
 ぼーっとしていると、そのまま軽く船長の唇が、私の唇と重なった。
 火照った私の唇と違って、船長のはひんやり冷たい。しかし次の瞬間には、ボッと顔が燃えるんじゃないかというくらい赤く熱くなった。


「せんちょっ」
「抜けるだろ、酒」
「ぬ、ぬけな」


 また唇が重なる。離れてはくっつき、くっついては離れ、そして私だけが息が荒い。それすらも飲み込まれるように、何度もキスされる。


「だ、め……たって、られない」
「抜けたか?」
「まだ……」
「ん」


 やっと解放されたかと思うと、ひざ裏に船長の腕がスッと入り、抱き上げられた。より近づく船長の顔が、とろんと潤んだ瞳に映る。
 この後どうなるかなんて考えられなくて、それでも気持ちよさを求めて、ひんやりとする船長の首筋に頬をすり寄せた。


「おさけ、もう、飲まない」
「そりゃ勿体ねぇな」


 船長の足音が、どこか遠くに聞こえた。

 




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