「あ、カク職長。良いところに」
「ん?何か用かのう」
「これ、サインしてほしいの。今ちょうど1番ドックに行ってたんだけど」
「おお、それは悪かったの。昼飯を食いにいっておった」
「遅くない?」
「ちょっと海賊が問題を起こしてな」


 お疲れ様、という彼女は同じCP9の一人。全ての事情を知っていて、今はカリファの補佐をやっている。つい最近、この任務の追加要員としてやってきたばかりだ。
 周りに人の気配がないことを確認して、彼女に話しかけた。


「もう慣れたか?」
「うん、だいぶ仕事も覚えた。カリファの速度にはついていけないけど……」
「ワハハ、お前はあんまりそういうのは苦手じゃったな」
「体力仕事の方が好きだわ」
「中々辛いぞ、船大工の仕事は」


 書類に目を通して、サインを書いていく。
 それを待ちながら窓の外に目を向けている彼女を、誰が殺し屋だと思うだろうか。

 自分だってそんな片鱗を微塵も見せずに生活をしているが、彼女は本当にそんなものとは無縁に見える。カリファの様に際立って美人なわけでも、ルッチの様に無類の強さがあるわけでもない。
 彼女は人々に溶け込むことを得意としていた。

 だから、平和な世界というのが誰よりも似合うのだ。


「ほれ、これで良いか」
「ありがとう。お昼からも頑張ってね」
「ああ。そうじゃ、夜一緒に飯でも行かんか」
「ブルーノの店?」
「わしらを知らん所がいいのう。デートしよう」


 そう言うと、ちょっとだけ驚いた顔をして、僅かに口角が上がった。
 嬉しい、とそういう表情だと取っていいのだろうか。


「カク」
「ん?」
「ここは、平和だね」
「そうでもないぞ、毎日の様に海賊の出入りもある」
「でも、次の日に急に殺されたり、隣にいた仲間を殺したりしなくていいもの」
「……」
「ねぇカク、こういうのを幸せっていうのかな」


 きっとこういう平穏な日々に長く身を置くことは、きっと彼女にとっては初めてなんだろう。そういって戸惑った様に笑う彼女は、とても綺麗だった。

 この一時だけの間でも、彼女に毎日を幸せに過ごしてほしいと。
 そう思わずにはいられなかった。

 




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