しとしとしと。

 薄灰色に塗り潰された空から、柔らかい音を響かせて落ちるそれを見上げる。かたん、と部屋の窓を開ければ少し温い風が頬を撫でた。

 昨日まで酷く寒くて外に出るのすら億劫だったのに、この雨のせいで今日は少しだけ暖かい気がする。

 暖かいといっても寒いのだけれど。

 吐き出す息はやっぱり白く、大気に溶けていった。
 冬のきんと澄み切った空気は好きだけれど、この雨の少し肌に張り付く様子は好ましくない。同じ季節なのに。やはり冬は晴れている方が良い。


「寒い」
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」


 窓を閉めてパタパタと寝台に近付き、自分が先程抜けでた窪みに控え目に入り込む。
 すると、大きな手に抱き寄せられ、外気で冷えてしまった身体がじんわりと熱で包まれた。


「この寒いのに、どうして窓なんか開けてたんだい」
「雨だなぁと思って」
「音でわかるだろう?」
「空を見たかったの」
「ふぅん」


 今彼の頭の中には疑問符が思い浮かんでいるんだろうなぁと思うと、少しだけおかしくて笑みがこぼれた。


「冷えてしまってる。これじゃあ、俺まで寒い」
「ん、出ていきましょうか」
「いや、こうする」


 そう言うと腹のあたりを彼の手が彷徨い、腰紐をしゅるりと解かれる。急に緊張感が無くなった腰回りが頼りなくて手で押えようとした。
 しかしそれよりも早く、着物の合わせ目をはだけさせて侵入した彼の手が腰に回され、ぐいっと引っ張られた。衣に隠れていた素肌が、元々何も纏っていない彼の肌と密着する。


「や……ちょっと、もう起きないと駄目なのに」
「何もしないよ。こうしてるだけ」
「本当に?」
「期待されてるなら、応えるけれど」
「知らない」


 淡白な彼の物言いに苦笑すると、そのまま彼の胸に頬を摺り寄せる。片方の手で前髪を少し払われ、軽く口付けをされたのがくすぐったかった。

 彼のぬくもりと、腕に包まれている安心感とで、微睡みが瞼を重くする。


「賈栩」
「ん」
「二人で遅刻しちゃおうか」
「はは、甘い誘惑だけど、夏侯惇あたりが怒鳴り込んできそうだ」
「あーそれは嫌かなぁ」


 結局二人して朝の軍議に遅刻。
 怒鳴り込んできたのは夏侯淵で、その後顔を真っ赤にした彼と、しばらくは顔を合わせてもらえなかった。

 




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