店長から与えられた仕事は、ホウエン地方にある育て屋さんのお手伝い。育て屋と聞いて私のテンションはそりゃもうドジョッチ登りだった。ポケモンバトルも好きだが、ポケモンとふれあい、育てる方が私は好きなのである。
 パートナーであるマニューラにテンションマックスで毛繕いをしてあげたらドン引きされた。だって楽しみだったんです勘弁してください。

 嬉々として育て屋さんの元へ向かった。筈。だった。


 それが、何故こうなったのか。



「…フード暑い…」
「…マニュ」



 私たちが今いる場所は火山。皆が忙しなく動く中、ばれない様に適度にサボりながら私は通常よりも熱い大地を歩いていた。
 赤いフードに黒い耳のようなものが付いた、センスは特に悪くない服を来た集団がわらわらいるのは何だか傍から見ても面白い。しかも地面の色と若干同化してまた良い味をだしている。

 私が新しく就いた職は育て屋ではなく、『マグマ団』という組織だった。

 あの日、育て屋さんを訪ねる前に少しだけ観光していこうかなと街に立ち寄ったのが間違いだったんだ。 赤と青の変な集団を見つけ、出来るだけ関わらない様避けて歩いていたら、何故か見知らぬ人に「お願い!一緒に面接受けない!?」と言われて腕を引っ張られた。
 お願い、の使い方が間違っていると思う。しかも抵抗する暇もなく私はその面接とやらに連れて行かれた。今思えばあれはこの組織に所属できるか否かの面接だったのだろう。

 彼等だって落としてくれればいいものを、私は何故か受かってしまった。本当に適当に答えてただけなのに。元から素質があるってか、泣きそうだ。
 私を引っ張ってった奴も受かってた。笑顔だった。はいはいよかったですね。

 頃合いを見てやめようと思っていたのに、どうやら自分の意思では止めることはできないようだ。そりゃそうだよな、そのまま敵側の所に駆けこまれたら大変だもんね。ちくしょう。


「ウヒョ、おいナナシ!サボってんじゃねえぞ」

「う゛ぇっ、はいぃ」


 マニューラを撫でながらボーっとしていたら後ろから襟首を掴まれ私の足は地面から浮いた。声からして誰なのかは分かっている。私の上司であるホムラさんだ。
 この組織に所属し、彼の下に就いてからというもの高確率で絡んでしまう。上司なんだし、当然と言えば当然なんだけれど。


「しかもこんなとこでマニューラ出すとか何考えてんだお前」

「うう、あんまりボール生活させてなかったもので……」

「氷に炎は致命傷だろ。今だけでもボールに入れとけバカ」


 そう言ってホムラさんは私の腰から勝手にボールを奪ってマニューラを戻した。今までカフェ店員しかしていなかったせいか、マニューラがボールに入る機会なんて半年に一回あるかないかくらいの物だった。そのせいかマニューラはボールの中に入るのを酷く嫌がるのだ。
 ああ、ごめんねマニューラ…でも十割ホムラさんの言う事の方が正しいんだ、今だけ我慢してね…。


「で、余裕ぶっこいて手持ちと遊んでたっつーことは当然見つけたんだな?」

「……えっと、何を、でしたっけ」

「…ウッヒョヒョ!」

「いだだだだ!!すみませんすみません痛いですううぅぅ!!!」


 ぐりぐりとこめかみに拳を入れるホムラさんしかも地味に足まで踏んでくるのでダブルで痛い。やめてくださいお願いです。


「バクーダだよバクーダ。ここらへんに野生で出るって話だ」

「…珍しいんですか?」

「ウヒョ、言うほどでもないがな。なんせ色違いが目撃されたらしいからな」

「色違い!?」


 というと店長のタブンネちゃんと同じじゃないか。本当は薄いピンクだけど、色違いのタブンネちゃんは薄紫色でそれがひどく可愛らしかったのを覚えている。
 …ああ懐かしいな店長とタブンネちゃん。今元気かな。暇だったら助けに来てくれないかな割と本気で。


「パワーもスピードも普通のバクーダのそれとは桁違いらしいぜ」

「それは…すごいですね。でもバクーダをゲットしてどうするんです?」

「アクア団の奴等を蹴散らす」

「(うっわあ…)」



 このマグマ団という組織と敵対しているのがアクア団と言って、名前からして相反している水を主とする行き過ぎた自然保護団体である。私たちマグマ団も人の事を言えないが、どちらかというとマグマ団はアクア団の行動を阻止するという目的が大きい。
 そこまでしてアクア団、というか水が嫌いか。とホムラさんに聞けば、「海なんかあわよくば干上がればいい」と言っていた。過去に何かトラウマ的な出来事にでも合ったのだろうか。

 私はどちらかというと水、というより青色や水色、白と言った冷色のほうが好きだ。が、マグマ団の中でそんなことを言えば袋叩きにされるのは目に見えている。只でさえ私のマニューラは氷タイプなので皆から「あわねーな」とからかわれているのに。悪が入っててよかった。


「ウヒョ、アクア団が解散すりゃまたここに逃がしに来るさ。誰かに懐いてなければの話だがな」

「…無理矢理捕獲して懐くも何もあったもんじゃないと思いますけど……」

「オラ働け」

「いったあああ!!痛いですって離してくださいいぃぃ!!」



 フードの端から僅かに出ている横紙を引っ張られながらずるずる引き摺られていく私。せめてフードの方引っ張ってください!と言う声は誰に拾われることもなく地面の熱で蒸発したんだと思う。

 バクーダが無事捕獲されたので解散という命令を聞いたのは、私が真面目に探し出して僅か十分後のことだった。


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