「あ、ナナシちゃん久しぶり!マニューラも!」

「え、あ、どうも…」


 彼に声を掛けられたのは、ホムラさんの指導と言う名の強制バトル後にマニューラと共にへとへとになりながら、自分の部屋へと帰っている時だった。明るい髪色が灯りの光を反射してきらきらと輝いている。彼の顔も輝いている。


「元気だった?随分疲れてるみたいだけど、任務帰り?」

「えーっと、任務と言えば任務…ですかね……」

「そっか。僕は今日書類整理だけだったんだ。カガリさんてばマツブサ様とどっか行っちゃって…」


 あはは、と屈託のない笑みで少しだけ困ったような笑い方をする彼。私をマグマ団に引き摺り込んだ張本人である。

 “お願い、一緒に面接うけない”というまったく意味の分からないお誘いと言う名の連行で、これまた意味の分からない面接を受けてうっかり受かってしまった原因。
 彼の名前はシラヌイ、さん。二十一歳の独身男性で、本人曰く昔ヤンチャしてて地元で雇ってくれるところがないので遥々ホウエンまで来たんだとか。嘘か本当かはしらないけど。


「本当は外に出て二匹のご飯を買いたかったんだけどね」

「食堂で無料配布のポケモンフード出てましたよね確か。あんまり美味しくないらしいですけど」

「あああれね。低コストで作ってるから仕方ないよ」


 まあどうしてもフード買えない人用ってので設置されてるだけらしいので、味に関して文句は言えない。無料で貰っている身であるし。


「そういえば聞いた?ホカゲさん単独でアクア団とやりあっちゃったんだってさ」

「!? た、単独で…?大丈夫だったんでしょうか…って、下っ端の私が言うのも何ですけど…」

「ホカゲさんは大丈夫だと思うよ、僕たちよりも強いし。それにあの人の戦法ってかなり特殊だからそう簡単にやられはしないだろうね」

「ああ、熱で幻覚って…すごいですよねアレ。生命危機にも陥るんでしたっけ」

「絶対相手にはなりたくないよねー」


 仮にも上司であり大の先輩であるが、こうも裏の無い笑顔で言われるとただそれだけの事なんだなとさらっと流してしまいそうになる。本当に彼は人付き合いが上手い。話を掘り返すようで悪いが、本当に昔はヤンチャだったんだろうか。

 彼の手持ちであるバシャーモとギャロップ、彼等からは会う度に何か同情の様な眼差しを向けられる。何というか、「うちの子がすみません」みたいな雰囲気だアレは。


「ナナシちゃん明日暇?」

「明日ですか…」


 確か、明日は午後はフリーなはず。午前は書類整理が大の苦手なホムラさんの手伝いをしなければならないので、恐らく昼飯時までは空いていない。


「午後なら何とか」

「ポケモンバトルしない?」

「貴方がそれを私に言うんですか」


 氷のマニューラと炎のバシャーモギャロップ。バシャーモに至っては格闘も入っているので悪も込みのマニューラでは手も足も出ない。スピード勝負だけならやっと互角に戦えるくらいだろう。


「タイプ相性で不利な相手と戦うことも経験だよ」

「私この組織ではいっつも不利なんですがそれは」
「それじゃ第二訓練場に、二時にね〜」

「ちょっ」


 爽やかな笑顔を振りまいてシラヌイさんはさっさと自分の部屋に戻っていった。ちょっと本当に冗談がキツイ。どういうことだ。

 マニューラが心配そうにこちらを見上げている。ああ、ごめんねマニューラ。明日はかなり辛いポケモンバトルを強いられそうだ。はっきり断ることのできなかったこんな主人を許してくれ。


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