本日久々にギアステーションも普通のバイトもない日である。外も晴れやかだし絶好の散歩日和だね、なんてジバコイルと話していたのに行きついた先は何故かバトルサブウェイ。どうしてだ。昨日トトメスさんと「休みだからショッピング行くんですよ」「いいね、僕もそろそろ新しくできたカフェに行きたいな」「行かないんですか?」「僕等に休みなんて無いのさ。休みの日くらい地下じゃなくて地上で過ごしてきてね」なんて会話をしたばかりであるのに。
 その理由は彼にある。


「ジバコイルだからー…水か炎か、それとも地面タイプが良いですか?それか大穴狙って同じタイプの電気とか」

「えっと、キョウヘイ君の思ったものでいいよ」

「じゃあこいつで決定!」


 彼はキョウヘイ君と言って、ついさっき道端で出会ったポケモントレーナー。

 何故か目が合った瞬間、手を掴まれて「一緒にマルチのペア組んでください!」と頼まれたのだ。何故、私なのかという質問は彼の耳には聞こえない様で、パートナーらしきエンブオーがぺこぺこと頭を下げている。ご、ごめんなさい気を遣わせてしまって。


「あ、あのねキョウヘイ君」

「何ですか? あ、こっちです」

「おわっ …ペア、私なんかでいいの?」


 一匹しかポケモンを持っていない私に彼は自分の手持ちを一体かしてくれると言い、私の手にブルンゲル(♂)の入ったボールを握らせてくれた。

 いや、待て待て。そこまでして私とペアを組む必要はない。というか私はバトルサブウェイは初心者なんてレベルではなく、一度も利用したことがない。別の街にいる友人に会いに行くときに少しだけ一般車両を使うくらいで、ギアステーションは基本的に清掃にしか来ない。

 二人で人ごみの合間を縫うようにしてある気ながら、私はキョウヘイ君に問いかけた。 すると彼は少し無言で進んでいたが、やがては足を止めてこちらを振り返った。その顔はにんまりと至極笑顔である。


「さっきさ、ナナシさんと目があったじゃないですか」

「あ、うん、あったね」

「その時に、なんていうか…身体全体に電気が走ったみたいになったんですよ」

「…電気?」

「はい。ペアを組むなら、」



 この人しかいないって



 そう言ってキョウヘイ君は笑ってまた私の手を取った。彼は本能で行動するタイプの子なのだろう。私なら私をバトルに誘うのは嫌だ。なんか、足手まといになりそうなオーラが出ている、と思うから。
 だがキョウヘイ君には感じなかったのか、それかキョウヘイ君の感覚が人とズレてしまっているのか…。


「先輩たちもいないし、先に進んで吃驚させてやろっと」

「先輩?」

「はい。時々ペアを組んでくれるんです …───ついた!」



 ついてしまった。キョウヘイ君とは百八十度違うテンションで私は若干項垂れた。

 目の前にはマルチバトルの案内文字がある。まさか清掃以外の目的でこの文字を目に居れる日が来るなんて。



「すみませーん、マルチ乗りまーす」

「あ、あのさあキョウヘイ君」

「あざーッス。 何ですか?」

「…私、ガチのバトルって久々なんだけど…」


 すぐ負けるかも、と小さく溢せば、一瞬きょとんとしてたキョウヘイ君だったがすぐに面白そうとでも言う風に笑った。


「俺だってまだまだですよー。それに大丈夫です、見たところナナシさんのジバコイルめっちゃ強そうだし、負けたらその時に考えましょう!おー!」

「お、おー…」


 可愛いななんだこの子。そんなことを思ってたらジバコイルが勝手に出てきて私の頭に激突してきた。ガツンと響いた音にキョウヘイ君が目を見開いている。
 私は涙目で頭を撫でながらジバコイルを見上げた。


「な、何でしょうかジバコイルさん…」

「ジババ」



 「ええ御身分じゃの我」みたいな目で見てきたジバコイル。把握した。この子は自分以外に構われるのが気に食わないんだろう。全く可愛いな私のパートナーは。ジバコイルの鉄でつるつるとしている身体を撫でてやれば少しだけ機嫌は直った。


「ジバコイル、ナナシさんにすごい懐いてますね」

「コイルの時からずっと一緒だしねぇ」


 電車に乗り込むと同時にバトル独特のピリッとした雰囲気が肌に刺さる。久々に立つこのバトルと言う名の舞台に私の鼓動は高鳴った。半分の恐怖と半分の期待。


「準備はいいですか、ナナシさん」

「…うん。バッチリ」


 キョウヘイ君はエンブオーを、私はジバコイルをそれぞれ出し、目の前の相手と対峙する。

 相手のアクアジェットによって試合開始となった。


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