「ジバコイル、そこの塵取りお願いねー」

「ジバ」


 ふよふよと塵取りを運んでくる自身のパートナーに癒されながら、私はまだ人がいないこの場所を箒で掃いて行く。

 私の再出発の場所は電車だった。いや電車というか、働き口がギアステーションの清掃員というものだった。新しい職にしては打倒だし、私は一番年齢が低いので何かと可愛がって(物理の時もある)もらえる。
 昔も今も職場には恵まれているな、と思ったと同時に今月の家賃の支払いが迫っているのを思い出して今晩は木の実だけで済まそうとも思った。貧乏アルバイターには割と日常的な風景である。

 元々綺麗なギアステーションなので特に掃除に手間取ることもなくすぐに終わった。始発まであと一時間を切ったので、そろそろ私も帰ろう。
 ここでの仕事はギアステーションの清掃(朝と夕の二回)ではあるが、それだけではやっていけないので他のバイトプラス家で内職もやっている。一気に、とはいけなくてもちまちまと稼げるものなので、こういったバイトの片手間にやるには最適な内職なのだ。
 バイトはバイトで只の店員なので、レジ打ちやマニュアルさえ覚えれば難しいことはない。


 ぐっと伸びをして私は夕方の掃除に備えて塵取りと箒をお客様の迷惑にならないところに仕舞う。ふと横を見ると、掲示板のガラスに反射した私が映った。
 段々板についてきただろうか、ベテランの先輩方に比べればまだまだなんだけど。

 ふっと小さく溜息を吐いて私はまた歩き出した。



「お、ナナシちゃんおはようさん」

「おはようございますクラウドさん」

「朝からご苦労さんやな。この後も他のバイトやろ?若い内から大変やなぁ」

「生活の為ですから、それに辛いなんて思ったことは一度もないです。ね、ジバコイル」


 ジバコイルがふよふよと私の周りを回った。クラウドさんは偉いなあ、と言って私の頭をぐりぐりと撫でる。完璧な子供扱いだが、前述したとおりこの職場での年齢層では最下位に当たるので特に不満に思うこともなく、少し照れくさい気もするが笑ってやり過ごす。

 鉄道員という職業に就いている彼、クラウドさん。バトルが物凄く強い。ダブルバトルが得意らしいが、偶にシングルにも駆り出されるんだとか。

 このギアステーションには一般車両とバトル車両の二つがある。バトルの方は、通称バトルサブウェイと呼ばれており、基本的にバトル狂の皆様が集う言わば廃人が行きつく場所だと聞かされている。
 バトルサブウェイにはサブウェイマスターと呼ばれるラスボス的な存在がおり、シングル、ダブルと一人ずついて双子なんだとか。私はまだ実際に生で見たことはないけど。
 彼等は本当にバトルが上手なんだとか。クラウドさんに聞いた話によれば「わしらなんか相手になるわけないやん!無理無理」と返された。

 只でさえ強いクラウドさんにそこまで言わせるのだから相当な実力者なのだろう。

 というかサブウェイマスターがこのギアステーションの責任者と言っても過言ではないのだから、強くなければ勤まらないのだろう。…まあ私はポスター等でしか見たことないので、勝負の如何程は分からないけど。シフト的に会う機会なんて早々ないだろうし。


「ほな、わし点検当番やからもう行くわ」

「あ、お疲れ様です。お先に失礼しますね」



 クラウドさんはおー、と手をひらひら振って関係者以外立ち入り禁止の扉へと消えて行った。

 鉄道員さんは本当に大変そうだ。時刻表の暗記にステーション内の把握、路線の管理にお客様の安全確保等休む暇なんて本当にないだろうな。
 だがそれは他の色々な仕事にも言える事であり、ここだけが特別忙しいなんてことではない。


「そろそろ行こっか」

「ジバ」


 ジバコイルが私の荷物をロッカーまで取りに行ってくれた。私はこのまま更衣室に行こう。


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