魅惑の高円寺商店街


夜の帳もとっくに落ちきった頃
すっかりだらしなく根を張り巡らせた重い腰もようやくそわそわしだす

とにかく腹が空いたのだ
ナニか無いかと冷蔵庫の中を覗いて見たが、食べる物等何も無く
冷蔵庫の中にはサントリー烏龍茶と氷しか入ってはいなかった
買い置きのカップ麺等も切らしてしまっている
今日は朝から固形物らしき物はナニも口には入れていない
浅沼と会った時に飯でも食えば良かったのだが、その時はどうにもそんな気分ではなかった

軽くシャワーを浴びて身仕度を整えて出掛ける事にする。
所持金は無駄遣いしない様に1万円ポッキリだ

余分な現金を持って出掛けると後先考えず衝動買いしたり、勢いで全部飲み使ってしまう悪い癖があるので、貧困時に出かける時は予算以外の金は持たないのが信条だ

お気に入りのポケットが沢山付いたKADOYA製革ジャケットを羽織、ポケットの中1万円を再度確認する
用心の為と無駄遣い防止の為財布と現金と身分証の類いは全部置いて行く事にする

それに余分な金も持って無ければ強盗に襲われようとスリに遇おうと被害額は最悪有り金で済むのだから
それでは足りないって輩に絡まれた場合でも、意外とどうにかなるってのは経験則でわかっているし、そんなトラブルは10年に1度有るか無いかの事なので出かける毎に気にする事では無い

家賃8万円の南阿佐ヶ谷のボロコーポから徒歩で高円寺の商店街を目指して歩き出す

目の前の通りには探偵社解散の切っ掛けとなった憎き教団の新しい道場が出来ていた、道場の目の前に常駐の警察官がいつも2人でその道を通る普段見かけぬ通行人にバンカケ(職務質問)を行っていた。
当然俺は近所に住む人と認識されているので、今は軽く目配せ会釈をするだけで一切声掛けされる事は無くなった。

途中ですれ違うのはスーツ姿のサラリーマン。
仕事を終えて食事して1杯飲んでのご帰宅時間だ
平日時のこんな時間からノコノコ出かけるなんて輩は、昼夜逆転生活者か明日の事を考えていない無職な輩くらいだろう

ポケットからセブンスターを取り出し、ジッポライターで火をつける
以前は火力を最大に上げたトーチバーナーを小型カスタムしたオリジナルのライターを使用していたのだが、火力が強すぎて天井を焦がす事が度々あったので使用は取り止めた
火を貸して欲しいと言う相手にライターを貸して、相手が前髪を焦がしたり、びっくりするリアクションが見たくて燃費が悪く不経済で非常に使用し難いライターだったのだが…

昔某探偵ドラマの主人公が使用している物より凄いライターを使ってやる等と、半分厨二病を拗らせた様な理由でしばらく使い続けていた間違った拘りの逸品だが、それに気が付く人も殆ど皆無だった為どうでも良くなり、今では飽きて部屋の何処に置いたかすら思い出せないと言うシロモノだ。

住宅街を斜めに抜け出た所から高円寺ルック商店街に入る事が出来る
高円寺と言う街はサブカルチャー系の人口比率が多く、変な格好をしている輩とか変な髪型をしている輩等が街の風景に溶け込み、パンクとヘビメタと劇団員とお笑い芸人が牛丼屋のカウンターで殺伐と飯を食べる姿が日常描写の様に見る事が出来る。
ロクデナシが帳の中を歩いていても全く違和感が無く溶け込めるのがこの街を気に入っている理由でもある。

ルック商店街の中半くらいにある喫茶店で飯を食べる事にする
此処の喫茶店は取り立てて良い所は無いのだが……悪い所も無く
ナゼココに来ているのか?
自分でも良くわからないけど度々来てしまう様な場所なのだ
自分の中では無意識の喫茶店と呼んでいる場所だ。
多分本当に行く理由は夜遅く迄営業している喫茶店だからと言う理由意外に思い当たる節はなかったりする
ピラフセット(サラダ&アイスコーヒー付き税込1000円)を注文し、常設してある漫画本の棚に目をやるが、これといって手に取って読みたくなる様な本も無く、ピラフの方も取り立てて旨くも無く不味くも無く、料金も高くも安くも無く……不満も無いが満足もしないのに何故か度々訪れてしまう
やはり無意識の喫茶店なのだろう。

食事を終えルック商店街を高円寺駅方面へ歩き出すとアーケード屋根のあるパル商店街と名前が変わる
このパル商店街こそ高円寺がサブカルチャーの街と言わしめた街なのだ
全天候型アーケードの中に様々な商店が立ち並び、ライブハウス、古着屋、古本屋、レコード屋、居酒屋、キャバクラ、ゲームセンター、パチンコ屋、レンタルビデオ屋、カレー専門店、etcと様々な店舗がひしめき合い終電終了の深夜迄人通りが途切れる事無くとても賑やかな商店街だ。

終電終了後からはストリートミュージシャンが何処から途もなく現れて、最近デビューした人気のデュエットゆずを夢見てか、路上ライブパフォーマンスショーが繰り広げられるのだが、今の時間から歌っている人はまだいない

商店街を中半過ぎた辺りにある
ライブハウスの入っているビルの居酒屋から、緑色の髪をした女子プロレスラーのコスチューム姿をした不細工なオネーチャンがビール瓶片手に大声で喚きながら出てきた。
ナンのパフォーマンスかわからんが、とてもタチの悪そうな酔っぱらいだ

絡まれたりしてかかわり合いになると面倒そうなので目を合わせないよう早足にその場を立ち去る事とする

早足で商店街を抜けて中央線降下を阿佐ヶ谷方面に少し歩いた場所に目的のBARの看板が見えてきた








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