嵐の前の暴力
店の扉が勢い良く音を立ててバタンと開いた
と同時にまくし立てる金切り声
「マスター〜ヤバいよ〜ウチ帰れないよ〜」
「どうしたのいきなり?」
この店の女常連客の1人
通称暴力女コト、殴り上戸のミユキだ
この女とは4年前の初対面の出会い頭にいきなり殴られた深い因縁がある
当時ミユキは新宿のクラブ勤めをしていたらしい。酔っぱらって店に入って来るなり俺の顔を見付けると、電光石火の如く思い切り平手打ちを咬ましてくれた。
全くいきなりの事でこっちも面くらい放心状態のまま鳩が豆鉄砲の如く
やれやれ全く酔い冷ましのビンタは勘弁して欲しい。
誰だ?この女?見た事あるのか?無いのか?
瞬時に自分の女遍歴の一覧表を照会するも該当者無し
更に記憶を辿るも全く顔に心当たりがないのだが、女の顔と印象等はメイク1つで全くの別人に変身するのが女の技、こっちが相手の事を忘れているだけって状態が最もタチ悪く、この手の対応には更に火に油を注ぎ血みどろ修羅場街道の入り口まっしぐらの瀬戸際に立たされているのが今の状況なのだ。
とりあえず殴られた怒りに任せて即反論反撃してはダメだ
落ち着いて相手のターンが修まる迄はこちらからは一切口を開いてはダメなのだ
そして相手が撒くし疲れた時に一言だけ
「気が済んだか?」
その言葉で相手は次の攻撃ターンに入るか、我に返り冷静さを取り戻すか?
修まらない場合は更なる発狂モードで殴りかかってくるのでこちらも覚悟が必要だ、相手が素手ならばこちらは急所をガードしながら、怪我しない様適度に殴られつつ相手が殴り疲れるのをひたすら待ち、凶器等を持っている場合は凶器を叩き落とさせてから素手で殴り疲れるのをガードしながら待つ
何れにしろ色恋の逆恨み等で頭に血が登った女を相手にした場合は相手が冷静を取り戻す迄はナニをどうしても発狂は修まらないのだ。下手に反撃したら凶器を持ったりしてより凶暴化して全く手がつけられなくなる事もある
逆上した女に後ろからブスリと刺されるホストが後をたたないのは完全に対応を間違えたからだろう
女嵐は耐え忍び過ぎ去るのを待つしか無い
そう教えてくれたのもマスターだ
ひとしきり殴り疲れた女はマジマジと俺の顔を見るなり……真顔になり
「あんた誰よ?バカじゃないの?死ね!」
と捨て台詞を残して一目散に店を後に走り去って行ったのが初対面の出来事だったのだ
茫然自失キョトンとしたままマスターに尋ねた
「マスター?今の女誰?」
「あぁミユキちゃんだね最近来る様になった子だよ」
「酒癖が悪く殴り上戸だから気にしなければ良いよ。多分小川君を誰かと間違えて殴ってたっぽいね…酔って無ければ可愛くて良い子だよ、今度酔っぱらう前に注意しとくから」
「なんだ…ただの通りすがりの暴力女か…
俺が原因じゃないなら良かったよ」
「だいぶ小川君も成長したね」
「マスターの教えと、伊達にヒモ歴3年もやって無いから」
「昔だったら店で大乱闘の大立ち回りだっただろうね
請求書は3割り増しで被害届けと一緒にを出すから暴れても別に良かったけど」
「ハハハ…今はウチの店の女子だけで手一杯ですよ」
てな感じの深い因縁のある女がまた嵐の様に現れたのである
「あれれ〜?小川っち〜久しぶり元気〜生きてる〜?あたし死ぬ〜る〜」
内心死ねよ糞酔っぱらい女と思ったが………
「どうしたの?とりあえず殴らず冷静に話そう」
「あっし誰彼構わず殴ったりしないよ〜あっ小川っちは別だけどッケケケップッ」
どうやら俺はこの女に酔って殴っても良い人と認識されているらしい
噛み癖のある犬が、何故か同じ人間以外噛まないのと同類の類いだ
確かに初対面後にも思い切り殴られた事が2回ある
待て待て俺!
対価も無く一方的に殴られ損じゃないか
別にこの女にナニかした訳でも借りがある訳でも無く、一方的に合計3回も殴られた
ガンダムのアムロだってブライトに殴られて
殴ったね!親父にも打たれた事無いのに!
と反論して更に殴られた
あっ…反論したらまた殴られるパターンだった
なんて言えば良いんだ
なんか悔しい
殴った分を体で精算させてやりたい
とか邪な考えが浮かぶ
ぶっちゃけるとミユキの容姿は決して悪くは無い
新宿の高級クラブで十分通用するレベルを4年も維持出来ている…(客を殴って店を変えた噂は数回聴いてはいるが)
酒癖が極端に悪いのと暴力を除けば十分性的対象としては魅力的な女の部類に分類される
この店でもミユキの本性を知らない客には人気がありミユキ目当てで来ている客もいると言う噂もある
とりあえず邪な考えは置いといて、ナニに取り乱しているのか本人に冷静に聴いてみた
するとこう言う事だった
クラブ勤めを終えて、客とアフターで飯を食べタクシーで家に着いたけど、家の鍵を何処かで紛失したらしく家に入れない
鍵のサービスに電話したら深夜出張サービス料金3万円加算+鍵のサービス料金別がかかってしまうので、途方に暮れてココに来たって事らしい
なんだ…そんな事か…内心ザマァと思ったりもしたが
別にたいした問題じゃないだろう
「オ〜イ…ミユキ!」
ポケットから鍵の束を取り出しミユキに見せて、この中に家の鍵と似てる鍵はあるか?
と尋ねた
「これ」と指指した鍵は三和のDSタイプだった
「これなら簡単にどうにか出来るかも知れないぞ」
「え〜小川っちウチのスペア鍵持ってるの?………変態」
また殴られた…
「違うって…探偵のテクニックで鍵を開けちゃうのよ」
「ほらルパン三世とかで見た事ある感じのゴニョゴニョってやつ」
「え〜そんな漫画みたいな事出来るの?」
「多分ね」
ちょっと用意するから少し待ってて
マスター ペンチってある?
マスターが
カウンターの下からごそごそと工具箱を漁る
工具の中からペンチは無かったがプライヤーが見つかった
「これがあればなんとかなるよ」
と言い
俺は店を飛び出した
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