安室さんに対して苦手意識を持っているような振る舞いを見せる雫さんが、偶に見せる姿がある。
きっとそれが本来の妹としての彼女で、安室さんを兄として慕う姿なんじゃないかと思うが、少しだけ俺の思うものと違うものに見える時がある。

「ここ、ついてますよ」

幸せそうにパフェを食べる雫さんに、自分の口のすぐ横を指差した安室さん。
雫さんはパフェを食べて気が抜けてるのか、へにゃり、なんて効果音が付きそうな位幸せそうな顔で笑いながら安室さんを見上げた。

「ん」

え。
同じように見ていた蘭と園子が声を上げたが、幸せ気分いっぱいな雫さんは気づいていないのか、相変わらず気の抜けた空気をまとっていた。
当たり前のように安室さんに顔を差し出して、彼もまた優しく微笑みながらそれをお手拭きで拭った。
きゃあっ、と騒ぎ立てる女子高生二人。
…何やってんだあの人。
そのまま幸せそうにパフェを食べ始めた雫さんと、それを眺める安室さん。

「ねぇやっぱり雫さんと安室さんってデキてんじゃないの!?」
「や、やっぱりそうなのかな…でも雫さん安室さんのこと苦手ってよく言ってるし…」
「ばっかねぇ、ツンデレよツンデレ」
「確かに、本気で嫌そうにしてるところ一回も見たことないもんね」

普段はこういう事言われると嫌そうな顔して否定するくせに、食べ物を前にした彼女は周りの事など気にも止めない様子でただひたすら幸せそうにパフェを食べていた。
あんたそれでいいのか、雫さん。

「はい、ケーキお待たせしました」

女子高生の話題の餌食となったもう一人は普段と変わらない態度で注文の品を運びにきた。
こっちは絶対ぇ聞こえてただろうな。

「ねぇ安室さん、いつから雫さんと付き合ってたのよ!」
「雫さんと、ですか?」
「ほら、よくご飯も食べに行くみたいですし、さっきも雫さんクリーム取ってもらってたじゃないですか…!」

そりゃあ兄妹だからな。
大方気の抜けた雫さんが幼い頃にしてもらってたとかそんな理由でついやっちまっただけじゃねぇのか?
あの人案外子供っぽいとこあるし。

「さぁ、どうでしょう」

口元に人差し指を立てて笑った安室さんの背中を残念そうな声で送り出す二人。
…なんであの人いつも思わせぶりな態度ばっか取ってんだ。

「安室さんいっつもあれで誤魔化すわよねぇ」
「じゃあ雫さんに聞く?」
「雫さんが答えるわけないじゃない」

まぁ安室さんは苦手だからの一点張りだからな。
本人いなくても平気で毒吐くし、多分あの手のタイプが本気で苦手なんだろう。
つまり兄としての安室さんがあの性格とは正反対ってことだろうけど。

「でも雫さんを見るときの安室さんって、凄く優しい顔してるなぁって思うよね」

俺にそう語りかける蘭の言葉に頷いた。
安室さんもそうだけど、あの人の話をしてる時の雫さんも、口では毒を吐きながらもその顔はいつも楽しそうだった。
なんだかんだで兄のことが好きなんだろうな。

「うん、二人共仲がいいんだね」

まさか俺のこの発言が蘭達の勘違いを加速させることになるとは誰も思わないだろう。
後日遠い目をした雫さんに「よくも余計な事を言ってくれたね…?」と言われる羽目になるのをこの時の俺はまだ知らない。
つーかあんな無防備にしてるあんたもあんただろ。


ーーーーーーーーーー

やらかした。
やってしまった。
安室透は降谷零とは別だと割り切っていた筈なのに。
思わず頭を抱えたい気分になりながら、私は現在女子高生二人に詰め寄られて居た。

「で、本当は?」

安室さんが休憩行ってるうちに早く吐きなさいよ!
本人いない方がいいやすいですよね。
と訳のわからない言葉で私に詰め寄った二人は、何が何でも安室透と私が付き合っていると言わせたいらしい。
いや、付き合ってないし!!

「安室さんは苦手だって言ってるじゃん。本当だよ付き合ってないし好きでもない!」
「じゃあなんであんなことさせてんのよ!」
「いつもやってもらってるみたいでしたよ?」

そう、これだ。
やらかしたのはこれである。
仕事終わりの疲れた体にあんな美味しいパフェ食べたらそりゃ気も抜ける。
しょうがないじゃん疲れてたんだもの!!
そんなうっかりで口元に付いたクリームを指摘され、昔兄にしてもらってたみたいに顔突き出した私が悪いよ。ええ悪いですよ。でもさぁ、ほら、そんなの学生時代だけだったし、つい当時のノリになってしまった私も私だけどさぁ…
でも兄さんも兄さんでなんでまた勘違いさせるような真似するかなあ!?
しーっていつもやってるけど、それほぼ肯定だから。この子達からしたらほぼクロだからな!!!

「あのガキんちょだってわかるくらいの仲良しっぷりじゃない」
「え、ちょっとまってあの子なんか言ってたの?」
「二人共仲がいいんだねって言ってましたよ」
「余計なことを…」

っていうかコナン君にも安室透は苦手って言ってたよね?なんでそうなるの?
本人を問い質そうにも先に帰ってしまったらしく姿が見えない。
覚えてろよ、エセ小学生。

「で、本当は?」
「あーもう!好きじゃないって言ってるじゃん!!」

不毛な押し問答に嫌気がさして半ば叫ぶように言えば、二人の視線は何故か私の頭上へ向かっていた。
え、なに。
カウンターを振り返れば、そこには休憩へ行ったはずの安室透が居た。

「あの言葉はウソだったんですね…」
「え、なにそれなにそれ!?超聞きたいんですけど!」
「もしかして告白は雫さんからですか!?」

ふざけるなよ安室透。
っていうかいい加減にしろよ兄さん。
わざとらしく悲しそうにいってみせる兄にわいたのは怒りでした。
なにしてくれてんだこの人。

「くっそう、もうやだこの店員…!」

勝手にしろ!と言わんばかりにお金を置いて店を出た。
ああやって遠回しに私をからかうのほんと性格悪いからね。絶対に許さない。
私の怒りが治るまでの数日は兄さんが来ても居留守を使い続けてやったのは言うまでもない。
結局折れた兄さんが謝ってきたので許したが、懲りずに思わせぶりな態度を取られたのは言うまでもない。
イケメン爆発しろ!!!!!







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