「…あの、私必要でしたか?」

小学校に保健の授業の特別講師と招かれた筈が、何故かお料理教室に紛れ込んでいた。
いや、なんで?

「ポアロの安室さんにクッキーの作り方を教えてもらうんですよ」
「私の保健の授業はもう終わりましたよ?」

先生、それは質問の答えになっていません。

「降谷先生には食と健康の授業をしていただいので、折角ならその延長戦で家庭科の授業にも参加していただければなと」
「ここからは安室さんだけで十分だと思いますので私は失礼させていただきますね」

安室さんの知識は私以上なので大丈夫ですと笑顔で告げて去ろうとすれば、それを許さんと言わんばかりに掴まれた肩。

「まぁまぁ、折角ですから雫さんも一緒にどうです?子供たちも嬉しそうにしていることですし。ねぇみんな、降谷先生とクッキー作りたいよね?」
「せんせー!いっしょにやろー!」
「わたし先生と猫ちゃんのクッキー作りたい!」

なんて狡い男なのだろう。
子供に振って逃げ場を塞ぐとか酷すぎる。

「そっかぁ先生も実はみんなとクッキー作りたかったから嬉しいなぁ」
「「やったー!!」」

子供達の喜ぶ顔を見て帰れるわけなどない。
引きつりそうになる顔を必死に堪えて満面の笑みを浮かべた私を誰か褒めてくれてもいいと思う。
こういう時、幼馴染が恋しくなるのは仕方ないことだと思う。
素直になれないお年頃だった降谷零くんの代わりに実にお兄ちゃんらしく私の面倒をみてくれたのは彼だった。

「それじゃあ降谷先生はあちらの班でお願いします」

担任の先生に案内されたのは女の子二人だけの班だった。
まぁ自由に組を作りましょうってなるとこういうのもあるよね。前世の私には暴言でしかなかったけど。いや、今世でも中々に苦労したけど。
薄暗い気持ちになりかけたものの、このクラスはみんなバランスよく組が作れているようだし、少ない二人組の所にうまいこと私が入れられただけだろうけど、大丈夫かこれ。
むしろ私二人の邪魔してないだろうか。

「せんせー、はやくはやく!」
「降谷先生と一緒にクッキー作れるの嬉しいなぁ」

あ、よかった。とてもいい子達だった。
その優しさに少し泣けた。

「あのねっ、これ隣の組のゆうくんにあげるの!かわいくできるかなぁ?」
「ゆみちゃんね、ゆうくんのこと大好きなんだよ」
「そうなんだぁ、ゆうくん喜んでくれたらいいね」

そしてこの歳でもやはり女の子は女の子。
恋バナに花を咲かせる二人はとってもかわいらしい。

「先生は好きな人いるの?」

私に振られなければの話なんだけどね。
同じ班となったゆみちゃんとあきちゃんは興味津々といった様子で私にキラキラしたお目めを向けてくる。
先生こういう純粋な目がとても苦手です。

「どうだろうねぇ。先生はおいしいご飯が大好きだからなぁ」
「あ、それ知ってる!花より団子って言うんだよね!」
「先生好きなこいないの?」
「花より団子だからねぇ」

えー。とつまらなそうな声をあげる二人にごめんねと苦笑するので精一杯である。
大人の恋バナは君たちみたいにキャッキャできるものではないんだよ。というかそんなテンション私には無理です。

「へぇ、初耳だな」
「なんでここで入ってくるんですかねぇ」
「なんだか楽しそうな声が聞こえてきたので僕も混ぜて欲しくてつい。ダメだったかな?」

おいやめろ。幼気な少女二人に安室スマイルをかますのはやめろ。

「ううん!安室さんも一緒にはなそ!」

そらみろ。この展開は秒で読めました。

「安室さんはどんな人が好きなの?」
「んー、そうだな、雫さんみたいに美味しそうに食べる人は素敵だと思うよ」
「人を巻き込むのやめろ」

このお約束とも言える展開に、私がいつ梓さんのように炎上するのだろうかと怯えていることを知っているのだろうか。
梓さんの場合買い出しの仕事で一緒に居るから余計に標的にされやすいのだろう。
あと安室透の無自覚を装ったイケメンの発言のせいで彼女は女子高生に目をつけられている。
イケメン爆発しろ。

「残念ですが先生はブラコンなのでお兄ちゃんがいればそれでいいです」
「えぇ、そうなの?」
「そうなの」
「先生のお兄ちゃんそんなにかっこいいの?」
「かっこいいよ」
「安室さんよりも?」
「比べるだけ無駄かな!」

もう一人の私が目の前のイケメンがお前の兄だと嘲笑したが、知るか。降谷零はサービスしないイケメンです。異論は認めない。

「あれ、前にブラコンではないって言ってませんでした?」
「いやもう面倒だからそれでいいです。お兄ちゃん大好きなんで本当。サービスするイケメンとかマジ眼中にないレベルでお兄ちゃん好きなんで」

安室透のツッコミに対して私の目が死んでることを気づいた人は果たしていたのだろうか。
なんかちょっと嬉しそうにしていた安室透がとても腹立たしかったです。
本当そういうとこよくないと思う。

「じゃあこのクッキーはお兄ちゃんにあげるんだね」
「かわいくできるといいね」
「お兄さんもきっと喜んでくれますよ」

純粋な少女二人には申し訳ないが、残念ながらクッキーは全て私のお腹に収まりました。


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「お兄ちゃんのクッキーは?」
「自分でお兄ちゃんっていうのやめてください帰れ」
度々反抗期が訪れる妹。





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