肉食系女子とは実に恐ろしい生物である。

「兄さんは格好の獲物だね」

全力で逃げてきたのか、肩を上下させながら息を整える兄の髪は少し乱れていた。
学校にファンが居るとかフィクションの世界だけだと思ってたけど、現実だったんだ。
それが自分の兄というのがまた不思議な感覚だけれども。

「…お前なぁ」

私と違って体力のある兄は直ぐに持ち直したらしく、恨めしそうにこちらを見た。
モテる兄さんが悪いのだ。
妹の贔屓目なしでも兄さんは確かにかっこいい。
昔から綺麗な顔をしていたけど、小学生の頃はまだ女子寄りの見た目で、モテるようになったのは兄が中学に入ってからだろうか。
私はまだ小学生だったから一緒に通う事はできなくて、一人寂しく帰路につく寂しい放課後、セーラー服を身に纏った見知らぬ女子と歩く兄を見た時、どうしようもなく寂しい気持ちになったのを今でも覚えている。
あの時、私は兄さんのことを初めて自分の兄だと実感した。
何時も俺はお前の兄ちゃんだからと駆けつけてくれた兄さんが側に居るのが当たり前で、それが自然なことだと思っていたけど、それが私の兄だという実感はその時までは無かったのだ。
なんだか兄を取られたようで複雑な気持ちになった。
人生二周目だといっても、前世の私は一人っ子で、密かに兄弟というものに憧れていたのかもしれない。

「俺はお前の方が心配なのに、呑気にしてるなよ」
「兄さんがヘマしなければ過激派に絡まれないと思うから頑張って」
「そうじゃない」

なんでお前はいつもそうなんだろうなぁ。とため息混じりに抱きしめられて、私も同じように背中に腕を回した。
歳を重ねるに連れてどんどんたくましくなる兄の体。
顔はこんなに綺麗なのに、体バッキバキになるのはなんか嫌だなぁ。
幼い時の柔らかさはもう感じなかった。

「ねぇ兄さん」
「どうした?」
「多分さ、また勘違いされてるよ」

通りすがりの女生徒数名が、抱き合う私と兄を見て頬を染めた。
ぱちりと目があった瞬間足早に去っていく姿は、完全に勘違いをした人の背中だった。
中学に上がったばかりの頃もそうだった。
あの時は兄とまた一緒に通えるのが嬉しくて、暇さえあれば兄さん兄さんとつきまとっていたけれど、あの時も兄妹としらない人には勘違いをされていた。

「勘違いさせておけ」
「虫除けに使うのやめてください」
「お前だって気の無い相手に絡まれたら疲れるだろ」
「そんな物好き居るかなぁ」

人生二周目も喪女突入してるからちょっと理解できない。

「私は兄さんが居てくれたらそれでいいけどなぁ」

私を抱きしめる腕の力が少しだけ強まったのが嬉しくて、思い切り抱きしめた。
やっぱり兄さんの胸板はかたかった。




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