※組織壊滅後設定


「そう言えばさ、キスする場所には意味があるって知ってた?」

そう言って頬に口づけてから、いつものように背中に抱きつく雫は上機嫌だった。
…いや、くっついてくる時は何時も上機嫌だな。
安室透にはあんなに冷たいのに、まるで別人のように甘える妹はやはり猫のようで、今にもごろごろと喉を鳴らしそうだ。

「頬へのキスは親愛だが、女性からだと甘えたいとも言われるな」
「正解!昔は知らなかったけど、よくほっぺにしてたよね」
「あれはいい虫除けになったな」

兄妹と知らない奴らは大抵勝手に勘違いをしてくれるから、その勘違いを指摘されない限りは俺も雫もいい寄られる事はなかった。
けれど直接聞かれて誤魔化す俺と違って正直に兄妹だと答えるせいで保って半年、早くて一ヶ月でバレるものだからよく雫に怒っていたことを思い出す。

「因みに、男女でキスの価値観が違うというのは知ってるか?」

一説では男にとってのキスは女性を抱く為の準備運動みたいなもので、女性にとってのキスは精神的な愛を求めるものと言われている。
首を振る妹に教えてやれば、知識が一つ増えたと言わんばかりの顔で知らなかったーと呑気に呟いた。

「で、これの意味は分かるか?」

耳に口付けてそのまま囁いてやれば、くすぐったいー!と色気のない声が上がる。
…まぁ分かってはいたが、ほんの一ミリでも期待をしていた俺が悪かったか。

「んーと、ちょっと待ってて」

ひとしきり笑ったかと思えば、今まで背中に張り付いていた温もりが離れ、今度は正面から抱き着かれる。
そして口付けられたのは鎖骨。

「…あれ、間違えた?」
「80点ってとこかな」
「え、あれ、100点はどこだ…」
「此処だよ」

俺がしたように耳に返せと自分の耳を示せば、素直に唇を寄せる。
大まかな意味は分かっていても、男女での違いは知らなかったか。
それを分かっていてやらせる俺も俺だが、先に話を振ったのは雫だ。

「100点?」
「ああ、100点満点の正解だ」
「やったー!で、意味は?」
「誘惑」
「え?」
「誘惑」

そろりと身を離そうとする腕を捕まえて、キスで成立した会話を囁けば、どんな顔をするのだろう。

「男からの耳へのキスは今すぐ抱きたい。それに誘惑で返したってことはそういうことだろう?」
「逃げてもいい?」

逃すわけないだろ。






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