※デレ期前なので妹の精神が大分大人です
※降谷零くん7歳と降谷雫ちゃん5歳
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何故か現在私は兄と仲良くお手てを繋いでお使い中である。

人生初のおつかいを言い渡され、気合いだけは十分な降谷零くんは買い物メモを片手に妹を引き連れいざ出陣…といったところだろうか。
本当は不安で泣きたいくせに、妹の手前そんなことは彼のプライドが許さないのか、しきりにお兄ちゃんがいるからな!大丈夫だからな!と何度も何度も私を振り返りながら言う様は実に子供らしくて可愛らしい。
一方の私はと言えば、内心はいはいと相槌を打ちながら表ではありがとう兄さんと言うだけに留めた。
はじめてのおつかいに警戒心ピリピリで妹の手を引く彼にはちょっとの刺激もニトロ並の威力を発揮するだろう。
わん!
通りすがりの犬が吠えてびくりと体を震わせてからすぐさま大丈夫か!と私を気遣う。
むしろ君が大丈夫か。
大きなお目々が潤んでるぞ。

「ねぇ兄さん」
「大丈夫だ!俺は雫の兄ちゃんだからな!ちゃんと兄ちゃんが守ってやるからな!」
「…うん、ありがとう兄さん」

さてはて、どうしたものか。
まるで自分に言い聞かすように大丈夫大丈夫と私に言うが、全く大丈夫ではないらしい。
あっさりと曲がるべき角を無視して直進する兄の頭からは地図が抜け落ちているのだろう。
やんわりと今のところは曲がるんだよと言いたかったが、今言ったら心が折れて泣かれそうな気がして言えなかった。
これが某番組であれば、あらあらお兄ちゃん、本当は曲がる筈なのにまっすぐ行っちゃいました。大丈夫でしょうか。とナレーションが流れることだろう。
しかしこれは某おつかい番組ではなく、ただの降谷家のはじめてのおつかいである。
通行人に扮したカメラマンなど存在しない。
ということは、今ここで降谷兄妹の保護者になりうる存在はいないということで、つまり、私がしっかりしなくてはならないということだ。
こういう時の為の人生二周目なんだろうか。

「……っ」

迷う事十分。
漸く自分が迷子であると自覚をしたらしい兄の目には涙が滲んでいた。
…いや、言えなかった私も悪いからそんな顔しないでお願い。
ズキズキとなけなしの良心が痛む。
変な人に声掛けたり掛けられたりしなかっただけ良かったか。
私と違って大変整ったお顔をしてらっしゃる兄はいつか誘拐されるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたから、むしろ二人でお使いに来れて良かったのかもしれない。
さて、妹が道案内しなくても迷子であることに涙目になってしまうお兄ちゃんにはどう対応するのがベストなんだろうか。
生憎前世で子供とは縁のない生活をしていたせいか、私に子供の扱い方はわからない。
気難しい上司とかおば様なら任せろって感じだけど、裏表のない子供となると話は別である。
妹の前ではしっかりものの兄でいたいというのも分かってるからこそ、下手なことは言えない。
…さて、どうしたものか。
すん、と鼻をすする音が聞こえてきた。
まずい、これはまずい。
ここでもし泣かれたとして、問題はこの後だ。
プライドが高い兄という生き物は、妹の前で泣いたとなるとその後の対処が非常に面倒になること間違いなしだ。
男の人はみんなプライドが高いから適当にへりくだっておだてときゃいいのよ。とは前世の友人の言葉だが、成る程、こんな子供でも男の人なんですね。
不要なプライドは捨てた方が楽なんじゃないんですかとは言えまい。
…まずは私がプライド捨てるべきか。

「兄さん、ちょっとだけ怖いからこうしててもいい?」

私は子供私は子供この子の妹と暗示をかけて抱きついた。
もうね、こうするしかないよね。
人は自分よりも怖がっていたり焦っている人間を見ると冷静になるものだ。
果たして子供にもそれが通じるだろうかとは思うものの、妹の前ではしっかりものの兄でいたい彼にはこうかはばつぐんだ。
何故か嬉しそうに抱きしめ返してきた。

「大丈夫、兄ちゃんがついてるからな!」

なんと頼もしいのだろうか。
さっき涙目になっていた事なんて無かったかのように百点満点の笑顔を見せてくれた兄に内心拍手喝采だ。
スタンディングオベーションだ。
そのままの調子で早く道を思い出していただきたい。
そうそう、そっちそっち。
気合いを入れ直したらしい兄はしっかりと私の手を握って歩き出す。
今度はちゃんと道を思い出したようで、目的地まで引っ張っていく頼もしい背中。
今まで一人っ子だったからよくわからなかったけど、この子私のお兄ちゃんなんだなぁ。
今までその実感はあまりなかったが、初めて素直にそう思えた。

「…にいさん」
「どうした?疲れたのか?」
「ううん、なんでもない」

確かめるように呼びかければ、しっかりと返事を返してくれる。
…なんだか不思議な感覚だ。
じんわりとあったかいものが広がっていくようで、その心地よさとほんの少しのくすぐったさに頬が緩んでいく。

「おつかい、楽しいな!」
「…うん、私も楽しい」

兄とおつかいするのって、こんな気分なのか。
もう少しだけ妹らしく甘えても大丈夫だろうか。
内心ビクつきながらもぴったりと腕をくっつければ、兄はまた嬉しそうに笑って私の頭を撫でた。
ぶわっ。
…ぶわっ?
なんだ、今の。
胸の奥がぶわってなったような…
ぽかぽかと暖かい胸を抑えながら首を傾げれば、兄も同じように首を傾げる。
かと思えば直ぐに焦るような不安そうな顔で詰め寄られる。

「胸、痛いのか…?」
「ううん、なんかあったかい…?」
「あったかい?苦しくないか?大丈夫か?」

何故か貧弱な体に産まれてしまった私は直ぐにバテることもあるからか兄が心配そうに問いかける。

「大丈夫、元気だよ…うーん…なんか、とっても嬉しい、のかな」

私の手を握る兄の体温も、こうして心配してくれる姿も、さっきみたいに笑って頭を撫でてくれるのも、嬉しい。
…私、この人の妹なんだ…そっか、なんかそれって、無茶苦茶幸せなんじゃ…

「兄さんと一緒にお使いできて嬉しい」
「俺も、雫と一緒で嬉しいよ!」

こんなに可愛がってもらえるのなら、妹というのも悪くないかもしれない。

この数年後、まさか自分がブラコンになるとは誰が思おうか。
人生二周目とはいえ、初の兄妹なんだから仕方ないよね。







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