腕の中に閉じ込めた温もりは、酷く安心するものだった。
甘えるように首元にすり寄って唇を寄せて微笑む顔。
兄さん。と俺を呼ぶその唇に触れるだけのキスをすれば、嬉しそうに笑って肩口に顔を埋めた。
妹に抱く気持ちに後ろめたさと罪悪感を感じていたあの頃、抱きしめる温もりは甘いのに、胸の奥を締め付けるような苦しさを感じていた。
再会して思いを吐き出してからは、その温もりは安心するものへと変わっていった。
己の信念の為、自分の命をかけてでも国を守る気持ちは今でも変わらない。
そしてこれからも変わることはないだろう。
ただ、必ず妹の側に帰ってくるのだと、自ら命を捨てるような真似だけはしないと思うようになった。
必ず帰るために、生きて任務を達成するのだと。
待つと言った妹と共に生きるために。
共に生きようと言ってくれた妹と生きる為に。
この国を守りながら、雫と共に、俺は生きたい。
「好きだよ、兄さん」
あの頃は意味の違いに苦しんでいた好きの言葉も、今では心地よく俺の中へ溶け込んでいく。
「ああ、俺も好きだよ」
好きだなんて陳腐な言葉も雫相手では特別な響きを持った言葉になる。
その一言に詰まった想いは漸く通じ合っていた。
絡めるように、溶け合うように、互いの体温を確かめるように、深く口付ければ心地よい甘さが体に染み込んでいく。
ずっと求めていた。
誰にも向けられる事のない特別な思いを。
「最近思うんだ。触れる体温を心地よく感じるのも、心の底から好きだと思えるのも、こんなにも安心できるのも、全部兄さんだからって。きっとこれが私の特別なんだって、そう思う」
もっと体温を感じられるようにと指を絡めるように繋がれた手。
普段はほんの少し冷えている妹の指先は温かかった。
「もしも自分の全てをあげれるのなら、私は全部兄さんにあげたいって思う。兄さんだけに、私の全てを貰って欲しいし、求められる物は全部あげたいって、そう思う。きっとこれが兄さんの言う好きなのかなって最近になって気づいたんだ」
でもね、と照れたように顔を埋めた際に見えた耳は、珍しく赤くなっていた。
「それと同時に、同じくらい欲しいなって、思った」
胸にこみ上げたのは、初めて妹に求められた時と同じ気持ちだった。
言葉では表しようのない思い。
きっとあの時から、俺は雫を求めていたのかもしれない。
俺だけに伸ばされる手を、俺だけを求める言葉を。
あの瞬間から、俺にとって妹とはまた別の特別な存在になっていたのかもしれない。
好きの違いが分からないと言いながらも、それでも俺だけがいいと答えた雫は今、俺と同じ答えに辿り着いたのだろう。
「…私、もしかしたらあの時からずっとそう思ってたかも」
「だとしたら、随分長い両片思いだな」
「近すぎて見えないってやつ?」
「お前が鈍感すぎるんだろ」
「えぇ、私のせいかなぁ」
嘘だよ。と言って抱きしめる腕の力を強めれば、嬉しそうに悲鳴をあげた。
無邪気な声で俺を呼ぶ妹の元へ帰る為にも、必ずこの使命を果たしてみせる。
「必ず雫の元へ帰るから、余所見しないで待ってろよ?」
「なんだかプロポーズみたいだね」
「一応プロポーズだからな」
以前自分がされたのと同じように、けれど痕はつけないように、細い薬指に口付けた。
← →
戻る
top