私は透兄さんが苦手だ。
いつもにこにこ笑っていて腹で何を考えてるかわからないところとか、やたらべたべた触ってくるところとか、他にも苦手な所は沢山あるが、何も私だってハナから透兄さんのことが苦手だったわけじゃない。
ちゃんときっかけがあるのだ。

透兄さんと零兄さんは見分けがつかないくらい顔がそっくりだから、昔はよく騙されていた。
零兄さんが透兄さんの真似をする事はないから、毎回透兄さんに騙されていたわけだけど。
今だって二人を見分けるには雰囲気だとか喋り方で見分けるしか無い。
昔散々騙されたお陰で人より区別がつくようにはなったけど、それでもあんなに騙されると軽いトラウマレベルで苦手になっても仕方ないと思う。

「ただいま」
「おかえり…あれ、零にいさんは?」

いつもは零兄さんと帰ってくるのに、今日は透兄さん一人だった。
私よりも一足先に高校に通う二人は、登下校はほぼ一緒にしてる筈なのに珍しい。
唯くんも居ないみたいだし、どうしたんだろうと首を傾げると、透兄さんはほんの少し悲しそうに微笑んで私を抱きしめた。

「雫、よく聞いて。零は今日デートだから帰りが遅くなるんだ。だから今日は透お兄ちゃんと二人きりで過ごそうか」
「零兄さん帰ってこないの?」
「そう、朝帰りってやつだね」

そんなまさか。
いやでも昔、中学に上がったばかりの頃零兄さんに彼女ができたんじゃないかって勘違いしたこともあるし、高校に上がってからの兄さん達は更にモテるようになったって唯くんからも聞いてるし…零兄さん、彼女できたのか…
なんだか悲しいような、寂しいような。
いつかはそんな日がくるとは考えて居ても、いざできたと聞くとやっぱり寂しい。

「大丈夫。僕は零と違ってずっと雫の側にいるからね」

そう言って慰めるように透兄さんは笑って私の顔に近づいてきてーーー

「させるか!!!」

勢いよく後ろへ引き剥がされていった。
透兄さんを引き剥がしたのは、何故か髪と制服をほんの少しだけ乱した零兄さんだった。

「大丈夫か雫!あの性悪に何もされてないか!?ごめんな、あんな奴と二人きりにさせて」
「零兄さん彼女と一夜を過ごすんじゃなかったの?」
「全部透の嘘だからな!俺がそんなことするわけないだろ!」

お前が居るのにと今度は零兄さんが抱きしめてくれて、彼女ができたんじゃないと分かって安心した私はそのまま同じように兄さんを抱きしめて肩に顔を埋めた。
そっか、兄さん彼女できたんじゃなかったのか。
よかったぁ。とそのまま呟けば、私を抱きしめる腕にほんの少しだけ力が込められた。
それが嬉しくて私もぎゅうぎゅう抱きしめていると、透兄さんの拗ねた声が零兄さんの名を呼んだ。

「折角零の振りまでしていい感じにしたのに、振り切って帰ってきたんですか?」
「当たり前だろ。というかお前俺のフリして女口説くのやめろ!!」
「どうせ同じ顔なんだからそれくらいしたっていいじゃないですか」
「よくないから言っているんだ。口説くなら自分で口説け!」
「口説いてるじゃないですか。降谷零のフリをした降谷透が」
「お前な…!!」

お、やりますか?とファイティングポーズを取る透兄さんに乗せられて、零兄さんも同じように構えた。
なんでこうも喧嘩ばっかするんだろうか。
まぁ零兄さんのフリして悪戯ばっかする透兄さんが悪いんだろうけど。

「ちぇ、雫と二人きりで過ごせるチャンスだったのにな」
「誰がお前と二人きりになんてするか!他所の男と二人きりにするよりタチが悪い!」
「どの顔が言ってるんですかそれ」
「鏡見てこいよ」

どうしたものかと悩んでも、ここに唯くんが居ない限りは私がどうにかしなくてはいけないんだろう。
なんて面倒な兄達だろうか。

「兄さん、兄さん」
「雫、先にこの馬鹿を沈めるから少し待っててくれ」
「何言ってるんですか、雫は僕を呼んだんです」
「いや、二人を呼んだんです」

妹置いてけぼりで喧嘩おっぱじめないでください。

「ねぇ、喧嘩やめようよ」
「雫がキスしてくれたらやめようかな」
「誰がさせるか!」
「男の嫉妬は醜いって言葉知りませんか?ああ、零はただのシスコンだからノーカンですね」
「お前一回鏡見てこい。それで今の台詞もう一回言ってこい」

そしてまたヒートアップする口喧嘩。
…もう知らん。
結局人のこと放ったらかしにするんじゃん。

「もういい、喧嘩する兄さん達なんて知らない。唯くんのとこ行くから、二人は好きなだけ喧嘩してれば?」

私、今日は帰らないから。
そう言って二人の横をくぐり抜けて出ていけば、悲痛な声が私の名前を叫ぶように呼んだ。なんだ、仲良く声揃えてるじゃん。
透兄さんがそんな声を出すのも珍しいなと思いながらも、今回ばかりは引き戻したら負けだ。
唯くんにもお前の兄さん達は甘やかさない方がいいと言われてるし。
仲良く二人揃ってお迎えに来てくれたら、その時は一緒に帰ってあげよう。


ーーーー
零お兄ちゃんはやや男前口調
透お兄ちゃんはあざとさと小生意気さを含んだ口調
本当は敬語キャラにしようと思ったけど、妹に対しては違和感があったので子供と喋ってる時の安室さんのイメージ
煽る透お兄ちゃんと、まんまと煽られる零お兄ちゃん。
ずる賢さでは透お兄ちゃんの方が一枚上手…?





戻る
top