なんでこうなっちゃったかなぁ。

カタカタとキーボードを叩きながら、自分の置かれた状況を他人事のように考えた。

家族構成は大学病院の医院長を務める父と、危ない組織で働く兄が一人。
そして私はと言えば父の跡を継ぐと思っていた兄が突然失踪し、医者の道から大いにそれたお陰であれだけ嫌だった医者となった。
院内を駆けずり回って働くだけでもへとへとなのに、いきなり再会した兄に連れられ自分も犯罪組織の片棒背負わされたのだから笑えない。
何してくれてんのこいつ。
表向きは医者として、裏では兄の為に色んな情報を集める為にハッキングその他諸々をやったりと完全に労働基準法を越える労働環境だった。
どうしてこうなった。
ただでさえ兄の尻拭いとして医者にまでなったというのに、その上犯罪組織に加担する羽目になろうとは誰が思おうか。

「名前」

しかしながら厄介な事にこの体は兄に対して恐怖を抱いている。
現にこうして名を呼ばれただけで体は硬直し、恐怖に震える。
昔から暴力を受けてきたからか、意識とは関係なしに怯える体はこの人がいる限り一生治ることはないだろう。

「に、さん」
「おいおいそんなに震えてどうしたんだ?お兄ちゃんが折角会いにきたのに酷い妹だなぁ?」

ニタニタと怯える私を笑うのは、他でもない血の繋がった実の兄だ。
そして実の兄だからこそ、私のことを憎んでいる。

「お前さえ居なければ母さんは生きて居たのに、なんでお前はのうのうと生きてるんだろうな?」

私を産むのと引き換えに亡くなった母。
その事を兄はずっと恨んでいる。
私さえ居なければ大好きな母は死ななかったのだと、そう責め立てるのだ。

「お前みたいな、クズが、どうして、のうのうと、生きれるんだ…っ!?あ!?ほら、いえよ!」

どすどすと人の腹を容赦なく蹴っては踏み潰す暴君。
昔から暴力を受けてるとはいえ、痛いものは痛いのだから勘弁して欲しい。

「にいさ…っ、にいさ、の、おかげ、です…っ」

普通に父さんのお陰なのだが、この暴君に言ったところで暴力が増すだけである。
適当に満足させること言って我慢して耐えれば終わるのだから、大人しくストレス発散に付き合うしかない。

「っ、ふ、ははっ、そうだよなぁ?そうだよなぁ?俺のおかげだよなぁ?じゃあお前は俺の為に働いて当然だ」

いやほんと、お前の代わりに医者もやってんだから多めにみてほしい。
とは言えずに頷いておく。

「はー…この書類は貰ってくから、後は勝手にしろクズ」

もうこいつほんとなんなの。
言われていたターゲットの情報を纏めた資料を持って去っていく兄。
いやほんとなんなのお前。

「…明日オペなんですけど」

さっさと休んで執刀できるくらいに治さなきゃいけないじゃないかクソ野朗。








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