花のJKデビューを果たして一ヶ月。

昼休憩突入を知らせるチャイムが鳴った瞬間に賑やかさを取り戻す教室。
わかるよ、お昼って一番楽しい休憩時間だもんね。
私も大好きだよ。
友人と今日のお昼御飯は何かなんて話をしながらウキウキで机に広げる。
ご飯はいいぞ。
生きてる中で最も幸せと感じる時間だ。
コンビニで買ってきた新商品のパンの袋を開封すれば、お腹のすくいい匂いが広がる。
何やら人が近づいてくるが、そんなこと知ったことではない。
私は今から至高の時間を迎えるのだ。

「苗字さんお願いっ!」
「…はい?」

昼飯じゃー!とパンにかぶりつけば、間近で聞こえた人の声。
確実に私を名指しして隣で頭を下げているのは見知らぬ顔。

「名前、ごめんね、この子あんたと友達になりたいみたいで」

前の席から困ったように笑う友人は、彼女の中学からの友人らしい。
成る程。
どうやらクラスも違うらしく、知らなくて当然である。
よかった、これで実はクラスメイトとかだったら笑えなかったわ。

「降谷先輩と仲良くなりたいの!」
「ねぇ私降谷先輩じゃないんだけど」
「ごめんね、この子話すの下手で」
「下手ってレベルじゃねぇだろこれ」

上げられた顔は真っ赤だった。
誰だよ降谷先輩。
ていうか友達になりたいって言ってないけどこの子。ねぇ、どういうことなの?

「ほら、ちゃんと自分で説明しな」
「う、うん」

なんだこの茶番。とは言わずにパンを飲み込む。
揉め事を避ける為には余計なことは言わないのが一番である。

「私、三年の降谷先輩のファンで、先輩に近づきたいんだけど先輩はモテるから…」

ファン?え、今ファンって言った?
今時学校の先輩のファンとかいんの?
というか誰だよ降谷先輩。
顔も名前も知らない先輩と私になんの繋がりがあるというのか。

「苗字さんなら先輩に近づけると思って…」
「ということで名前と仲良くなりたいんだって」
「意味がわからないよ…つーかそれ完全に囮なんですけどこれ友人って言う?」
「恋する乙女は強かなのよ」

よろしく。と席を立った友人は薄情者である。
仲良くなりたいって何処に含まれてた?
私にはそう聞こえなかったんですけど。

「私降谷先輩の顔も名前も知らないし、そもそもそんなおモテになる先輩に近づくとか怖すぎて無理なんですが」

確実にファンを敵に回す気がする。

「大丈夫、名前ちゃん顔立ちは綺麗なのに中身が伴っていないから基本男子扱いだから!」

笑顔でディスられてんだけどどういうことなの?
すっかりお友達気分らしい恋する乙女は台詞さえ違ってればさぞ可愛かったことだろう。

「照れることもないし、誰が相手でもハッキリ物を喋れるってあの子も言っていたから、降谷先輩と近づけるのは名前ちゃんしかいないって思って…!」
「三年の、しかも何の接点もないモテモテ先輩に声をかけろと?」
「お願い!」

恋する乙女は強かなのよとは正しくその通り。
認めるから助けてくれと手を伸ばそうにも、友人は逃げだした。

「その代わりピアノ教えるから…!」
「…乗った」

最近父親が娘がピアノ弾けるっていいなぁ。と呟いていたので、どうにか習得せねばと思っていたところだったので丁度いい。
大方友人がそのことをバラしたんだろうけど、先輩との接点作るだけで教えて貰えるんなら安いものだ。

「で、降谷先輩ってどんな人?」

こうしてまんまと餌につられた私は降谷先輩とやらと顔見知りになることとなった。







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