警察学校の後輩に一人、なんでもこなすという女が居た。
教官達の間では言ったことは全て完璧こなす化け物みたいなやつだが、言わなければポンコツと噂されて居た。
その聞き覚えのある名前に浮かんだ顔は一つだけ。

「やっぱりお前だったか」
「はい?」

食堂の片隅で、アホ面で呑気にうどんをすする後輩の姿は、どこにでもいそうな平凡な女だった。
高校時代の後輩であるこの女が警察学校に入った事を知ったのも教官達の間で噂になっているのを聞いたからだ。

「…おい、まさか忘れたとは言わないよな?」

ぽかりと半開きの口に微かに傾げた首。
確かに連絡を取り合う程仲良くはなかったが、校内ですれ違う度に声を掛けてきたのはお前だろう。

「あ、降谷先輩!」
「…お前は本当にポンコツだな」
「なんで久々にお会いして暴言吐かれてるんです?」
「お前があいも変わらずアホだからだよ」
「いやこれでも私中々に優秀ですけど?」
「知ってる」

だから教官の間で噂になっているし、それが広まりつつあるから俺の耳にもはいったんだ。
高校生の頃、テストで一位を取ったら褒美をやると言えばあっさり一位になったこいつは実は要領いいんじゃないかと思う。
というかわざと手を抜いていたとすら思っている。
たった一年しか被らなかったせいでこいつのその後の活躍を知れなかったのは残念でもある。
…卒業後、連絡先を交換しておけばよかったと思ったのは死んでも言わないが。

「警察学校って、全部いい成績の方がいいんですかねぇ」
「は?何言ってんだお前は。当たり前だろう」
「そういうものですか…うん、じゃあ私頑張ります」

へらりと笑うアホ面は、やっぱり学生時代と何も変わっていなかった。
それから数日後、とんでもない逸材が入ってきたと噂になったのは今でも覚えている。

あいつ、また手を抜いていたな。
食堂で見かけた時きっちり説教をしてやった。



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