「起きろアホ」
「いった、パワハラです」
「職務放棄してるお前が悪い」

デスクに突っ伏して居眠りをする部下の頭を容赦なく叩けば、不満そうな顔がこちらを見上げる。

「新人のくせに居眠りとはいい度胸だな?」
「もういい子ちゃんは卒業しようと思ってるので」
「なら今度はいい部下になるよう励め」

俺より2年遅れて入ってきた新人警官はやはりへらりと笑う。
本当に大丈夫かと不安になる顔ではあるが、上の言うことはきっちりこなす事はもう分かりきっている。
あとはこいつが手を抜かないように俺が躾ければいいだけだ。

「上から呼び出しが来てる。行くぞ」

そうして入って間もない部下と共に黒の組織への潜入を言い渡された日。
あいつはやっぱり何時ものアホ面で笑っていた。

「いい娘になる為ならなんでもやりますよ」
「学生の時から気になってたが、お前いい所の出だったのか?」
「いい所というか、まぁ、父は大きな病院の医院長先生やってますね。あの人正義感が強いので、たまにひったくりやら痴漢やら撃退してていい意味で警察のお世話になってます」
「初耳だな。よかったな、立派な人が父親で」
「…ええ、なので私は良き娘でなければいけないんです」
「アホ面晒してて言うかそれ」
「緊張感ないのは昔からです」
「そうだな、お前が真面目な顔した所は見た事がない」
「ひどいなぁ、降谷さんは2年先輩だから知らないだけですよ」
「なら今後は真面目な顔が見れる事を期待してるよ」

緩くてどこか掴めないこの部下の印象は、組織への潜入で変わって行くことをこの時の俺はまだ知らなかった。



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