借りているホテルのドアを叩かれスコープから外を除けば、そこに居たのは我らが上司様でした。

「よくわかったね、バーボン」
「スコッチから聞いた」

部屋に入った瞬間、降谷さんの顔になったので私も部下の顔に戻ることにした。

「なんだか久しぶりですね」
「任務も被らなかったからな。所でお前、無茶してないだろうな?」
「大丈夫です。ジンもあの一件以来、一応は認めてくれてますし、とりあえず機嫌も悪くないんでまだ潜れます」
「そうじゃない。お前自身のことを聞いているんだ」

成る程、そうきたか。
なら私はへらへら笑うしかない。

「大丈夫ですよ。ちゃんとご主人様の元に帰ることを一番に考えてますので私は死にませんし、死にたくないのでバレるようなヘマもしません」

首輪もありますし?と錆びついたネックレスを見せれば、頭に置かれた手。

「私のせいで錆びちゃいましたけど。折角頂いたのにすみません…」
「相変わらずの忠犬ぷりで何よりだ」
「馬鹿にしてます?」
「今のはお前から言い出したんだろ」

いやまぁそうなんだけど、そうなんだけど!
自分で言うのは良いけど人から忠犬って言われるのはちょっとみたいなのあるじゃん。

「ほら、ご褒美の新しい首輪だ」
「私にとってネックレスイコール首輪の図ってもうどうにもなりませんか」
「ならないな」

一生人権帰ってこないかもしれない。

「ほら、付けてやるから手を退かせ」
「え、いいですって!自分でやれますよ」
「いいから黙って言うこと聞け」
「…わん」

くそう、なんで私が叱られてるんだ。
思わずわんと答えればツボにハマったのかくつくつと笑うイケメン性悪上司。

「よし、マシになったな」
「首輪がって意味でいいですよね?見てくれの話じゃないですよね?」
「お前面倒くさいな」
「ちょ、流石に面倒くさいは傷つくのでやめてもらっていいですか?」

はいはいと聞き流しながら、テーブルに乗せたままの手鏡を握らされた。
そこには以前と同じシルバーのシンプルなデザインで、けれど前よりも明らかに高そうな雰囲気のネックレスをつけた自分が居た。

「え、え?ブランドとかよくわかりませんけど、なんか前よりも明らかに高そうなんですけど?え?大丈夫ですかこれ」

以前の奴も一応ブランド物だったらしいが、あれは高校生でも手の届くもので、今私がつけてるのはハイブランドを感じさせる輝きを放って居た。
なんか宝石キラキラしてるんだけど。
チェーン部分もなんかすっごい綺麗なんだけど。
え、この石本物?

「お前もいい大人だからな。年相応の物一つくらい持っておけ」
「え?これなんですか?宝石?天然石ではなく?マジ物じゃないですか?なんかむっちゃ綺麗なんですけど」
「前のは天然石だったけど今回のは本物のサファイアだよ」

サファイアって確か希少価値ある宝石って聞いたことあるんだけどマジで?

「…もう汚せない」
「当たり前だ。その為に選んだような物だからな。血の一滴でも付けてみろ」
「…もし付けたら…?」
「さあ?自分で考えろ」

わ、笑った…だと…!?
一気に背筋が凍る笑みってこの人にしかできないんじゃないかな。
人の笑った顔ってこんなに怖かったっけ?

「降谷さん」
「どうした」
「まだまだ私は未熟ですし、兄貴分二人には到底及びませんが、全力を尽くすのでちゃんと手綱握っててください」
「当たり前だろ。お前手を抜く所あるからな」
「ですよねぇ」

まぁこの人の前では一生手抜きなんかしませんけど。

「兄貴分のお二人が居てくれるからこそ、私は頑張れます。そして降谷さんが手綱を握っていてくれるから、ちゃんと戻ってこれます。
だから、その手綱の先に必ず私がいる事覚えていてくださいね」

絶対に、何があっても離さないでください。
ちゃんと引っ張ってくれたら、いつだって駆けつけます。
なんて言えば思い切り頭を撫でられた。
ねぇ、だから私犬じゃなくて人間なんだけど。
なんで犬を撫でるような撫で方するの?

「俺以外の誰がお前の手綱を握れると思ってるんだ?」
「昔から私の手綱は降谷さんにしか握れませんでしたね」
「ご名答。ご褒美に今度はビーフジャーキー買ってこようか?」
「すでにスコッチから貰いましたよ!」
「なんだ、残念」

やっぱお前忠犬じゃないか。
と笑った降谷さんに、多分私この人の前で人に戻れる日来ないんじゃないかと不安になったのは言うまでもない。
貼り紙でもして家出した人権を探そうか。



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