「なぁ、最近あいつと話したか?」

任務で移動する車の中で、突然切り出された話題は言うまでもなく苗字のことだった。
ライもいる中で発せられたのは、奴も苗字と親しい間柄になったからだろう。
ジンに疑いを掛けられ、消すつもりで一人任された任務で重傷のあいつの面倒を任されたのがきっかけだったと苗字本人に聞かされていた。
その経緯で俺たち三人と親しい間柄となった苗字がこうして話題に上がる事が度々あった。
それは殆どがスコッチが始める話題だが、完全に組織の人間だと思い込んでいるらしいライもその話に混じるのはよくある事だった。

「そういえば君がバーバラの話をすることはあまりないな」
「任務で一緒になる事も少ないですから」
「でも折角の妹分なんだからもっと構ってやってもいいんじゃないか?」

すっかり兄貴分となったスコッチは、あの日以来暇さえあればバーバラに絡むようになっていた。
あいつも慣れてきてボロを出す確率が減ったとはいえ、不用意に近づいて不審がられるわけにもいかない。

「スコッチが兄貴分という話はバーバラからよく聞くが、バーボンもそうだったとは」
「勝手にスコッチが言ってるだけです」
「重傷の彼女の見舞いに来る程度には気にかけているんだろう?」

余計な事を覚えているものだ。
ライが部屋を離れた隙に様子を見に行ったというのに、この男にはバレていたのだろう。

「最初は驚異のスピードで幹部入りをした女性と聞いて気になっていただけなのが、実際関わると緩い空気とへらへらした顔に絆されそうになっただけですよ」
「確かに、黙ってたら美人なのに口が悪いからなぁ」

初めて会った高校の時、あいつを忠犬と言い始めたのは他でもないスコッチで、あの時からスコッチはあいつの存在を気にしていたのだろう。
一方のあいつは他者への興味関心が薄いせいで、関わりの少ない人間のことは気にも止めない鳥頭だった。
スコッチが苗字と話すようになったのも組織に入ってからと聞いた時はなんとも言えない気分だった。
あれだけ昔からスコッチは知って居たのに、あいつの頭の片隅に辛うじて残って居たのは俺だけだと思うと、やっぱりあいつはポンコツなのかもしれない。
けれど首から下げたネックレスを見た時は口にはしなかったが、内心嬉しかったことを思い出す。
勿論誰にも言わないが。

「昔ご褒美に貰ったらしいネックレスを今でも付けている所は可愛らしいがな」
「お、その話もっと聞かせてくれよ」
「残念だがこれ以上は本人から口止めをされていてな。どうしても気になるのなら本人に聞くといい」
「そりゃ残念。じゃあせめてその話してた時の顔くらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」
「彼女の兄はとんだシスターコンプレックスだな」
「そりゃあかわいい妹分だからな」
「そのかわいい妹分らしく、かわいい顔をしていたとだけ言っておこうか」

あの苗字のかわいい顔と言われて考えてみたが、気の抜けた顔のあいつしか思い浮かばなかった。
昔見た音楽室でのあいつの顔とも違うのだろう。
きっとあれは言葉にするのなら綺麗だと、そう思える顔だった。

「錆びても使う程思い入れがあるんだろう」
「いい加減新しいのつければいいのにな」

うるさいな、まだ何にするか悩んでるんだよ。
一緒に選ぶつもりだった筈が、首輪はご主人様の仕事だろと笑って先に渡したスコッチのことは一発殴っておいた。
遠回しに催促をする声は適当に流すことにした。



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