chapter13



からくり屋敷。琴音が足を踏み入れた洋館は、そう呼ぶにふさわしい場所だった。数え出したらきりが無いため、いくつか例をあげたいと思う。例えば――…、古典的だが、天井のとある箇所は屋根裏になっており縄梯子が降りてきたり、書斎の一部の棚は実はダミーで、廊下へと直接出ることができたり、まるでここは日本のニンジャ屋敷のような建物だった。

「…と、いうより本当に日本文化がお好きだったんでしょうね…」

琴音が今いる場所は、畳の上。15畳はある部屋には畳が敷き詰められ、神棚と甲冑と、日本刀らしきものが置いてあった。明らかに趣味の部屋であることは明白である。この部屋を見てこの洋館がカラクリまみれであることに何となく納得した琴音は、余計に身を引き締めようと思った。下手をしたら次は槍が降ってきそうだと考え、思わず青ざめてしまう。

「…全く洒落になりません…」

とにかく、この部屋にはもう何も無いだろうと判断した琴音は、ドアを開けて部屋から出ようとした。そう、出ようとしたのだ。しかし、背後からガチャン、と重たい鉄が触れあっているような音が聞こえてきて――…、思わず動きを止めた。そっと耳をすますと、またガチャン、と重たい音が聞こえてくる。もしやと思いゆっくりと後ろを振り向くと…。

「ひ…っ!」

飾られていた甲冑が、1人でに動いていたのだ。ガチャン、ガチャン、と音を鳴らしながら、ゆっくりと一歩ずつ歩を踏みしめ琴音の方へと近づいてくる。琴音はそれを見て、昔見たジャパニーズホラー映画を思い出した。甲冑の中にはその甲冑を着ていた武将の霊魂が入っており、今でも主君に認められるために多くの人間の首を切っているという―――…。

「き…、キャ――――ッッッッ!!!」

琴音は涙目になり、手に持っていたハンドガンで甲冑の…頭の兜の部分に6発発射した。するとそのうちの1発は甲冑の顔の部分である面にあたったらしい。動きを止めた甲冑の仮面に、大きなヒビが入った。そして、パリン、という音をたてて仮面が割れ、その下には、

「…!」

人骨が顔を出したのである。
恐怖に駆られた琴音は、口をパクパクとさせて思わず後ずさってしまう。すると甲冑は機械のようにぎこちなく動き、兜が地面へと落ちた。すると、ズルズルと上に向かって人骨が甲冑を脱ぎ捨てるように出てきたのである。ガチャリガチャリと、重たく大きな音を立てて甲冑は地面へと落ちる。そうして、1つの人間の骨が甲冑から出てきた。まるで模型のように立っている人骨。琴音はもう我慢の限界だった。声にならない悲鳴をあげ、慌ててその部屋から飛び出したのであった。

「(お化けお化けお化けお化けぇぇぇ…!!!!!こんな太陽が高く登っている時間帯にお化けってどういうことですか!!い、いいい意味が分かりません!!)」

全速力で屋敷の廊下を走った琴音は、近場の部屋に滑り込んだ。力の限り走ったせいか、息の乱れが酷い。琴音はドアを背にし、ズルズルと座りこんだのだった。うっすらと額にかいた汗をぬぐい、早鐘を打つ心臓をなんとかおさえようとする。

「悪魔だけでなくお化けまでいるなんて…。この洋館、侮れませんね…」

自分自身の気を奮い立たせるように、琴音は無理やり強がってみせた。しかし声は震えて涙目である。とにかく今は気を落ち着かせようと、ハンドガンに弾を装填し始めた。先程の甲冑のお化けに全弾使ってしまったからだ。

「(落ち着きましょう…。いくら驚いたからって、弾を6発も使ってしまうのは明らかに判断ミスです…。いくらお化けだからって、……お化け…)」

琴音はすっとんで逃げたため、アレがどうなったかは知らない。もし自分でドアを開け、この屋敷を徘徊し始めたならば―――…。そう思うと、琴音の落ち着いたはずの心臓が再び激しく音をたて始めた。

「か、考えるから怖いんです!忘れましょう!動けば忘れます!動きましょう私!」

ぐっと立ちあがりキョロリと部屋を見回すと、奥にもう1つ部屋があるようだ。扉はなく、人が通れるだけ壁が切り取られ本棚がチラチラと見える。気になった琴音は、そちらの部屋へと入っていった。

「書斎…いえ、どちらかというと書庫というべきですか」

その部屋は、本で埋め尽くされていた。…とはいえそこまで広い部屋では無い。書斎に入りきらなかった本をいったん別の部屋に置いておこう…といった風の部屋だった。少々埃っぽいその部屋をくるりと見回し、ふと、1つの絵が壁に掛けられているのを見つけた。

立派な額縁に入れられていたソレは、噴水の絵が描かれている。おそらく、ここの中庭にあった噴水だ。噴水の周りは見事なバラが咲いており、当時の、まだこの洋館の主がいた時分の様子が描かれているのであろう。しかし、どうも妙である。この絵の位置は部屋の一番奥の、本棚と本棚の間の暗いところに飾られている。これだけ広い洋館なのだから、こんなところではなくもっと他に飾るところがあるだろうに――…。

「ちょっと額が歪んでいますね」

少しだけ斜めに傾いていた絵が気になった琴音は、真っ直ぐに直した。と、その瞬間。ガコン、と鈍い音がした。

「え、」

すると、ガラガラガラと何かが回る音がして、絵のすぐ右隣にあった本棚が動き出した。そしてゆっくりと、絵を隠すように左へとスライドしたのである。

「え、え、?」

目をパチパチと瞬かせている間に本棚は動ききり、小さめのドアが先程本棚があった場所から顏を覗かせたのであった。

「これはまた…怪しさ満点ですね…」

小さいながらも重厚なドアから、何やら禍々しさが滲み出ているような気がする。開けるか開けまいか、少し躊躇してしまうのは仕方のないことだろう。しかし、今までのからくりのようにただのお遊びで作った部屋とは少々違う気がする。直感に近いが、琴音はそう思った。意を決してドアノブに手をかけたそのとき。ガチャリ、と、ドアを開ける音が聞こえてきた。

当然、琴音はまだドアノブに手をかけているため琴音が目の前のドアを開けたわけではない。すると今度はギィィ、とドアの蝶番が軋む音が聞こえた。ドクリ、と琴音の心臓が大きく跳ね上がる。そして次に、コツリ、と床を踏む音が、静かな室内に響く。一瞬、さきほどの骸骨のお化けが追いかけてきたのではと思った琴音ではあったが、どうやら違うようだ。


「(では、誰――…)」

琴音はゾワリと背中に悪寒が走り、慌ててハンドガンを手にとりこの部屋の入口の、すぐそばの壁に張り付いた。コツリコツリ、という音とともに、向こうの人物(ヒトかどうかは分からないが)も銃を手に取る鈍い音が琴音の耳に届いた。

「(私がここにいることに気づいている――…。随分と、冷静ですね)」

相手が自分に気づいているならば、変に隠れたって意味などない。そう判断した琴音は、ゆっくりと1つ呼吸をして…、壁から飛び出したのだった。銃を構えて相手を確かめ、そして琴音は、目を見開いた。それは相手も同じで、アイスブルーの瞳を目いっぱい見開き愛銃を片手で構えている。

つい昨日会った筈なのに、随分と長い間会っていないような気持ちになったのは…琴音が昨日とは違う気持ちで、違う人間として、彼と対面しているからか。銀色に輝く髪に、赤いロングコート。彼は変わっていないのに、自分だけが変わってしまったような感覚におちいる。現在の姿が本来の琴音であって、今までが違っていたのだ。それなのにまさか、そのことに少しでも寂しいと感じるなんて――…。

「ダンテ、くん」
「コトネ…」

お互いに、自然と銃をおろす。そして数秒見つめあい…、琴音は勢いよく駆け出した。不意を突かれたダンテは、手を伸ばすもあと数センチ、琴音に届かなかった。

「ちょ、おい…! コトネ!」

ダンテの声を振り切るように、琴音は走る。自分でも、なぜこうやって彼の前から逃げ出そうとしているのか分からなかった。任務とはいえ、彼を騙していたから?銃を持っているところを見られたくなかったから?思い当たる理由は様々であるが、とにかく今の自分を琴音はダンテに見てほしくなかった。ズキズキと痛む心臓をハンドガンを持つ右手で抑えて真正面へと目を向け、そして…。

「き、きゃああああ!?!?」

琴音は思わず悲鳴をあげて、Uターンしてしまった。なぜかというと、例の…和室で対面した人骨が、日本刀を持ってこちらにやって来ていたからである。なぜこんな時に!と思いながら、全力で走っていた琴音は前をちゃんと見ていなかったため、何かに思い切りぶつかった。

「ハッ! コトネから捕まりに来るなんて、手間が省けたぜ。…ん?どうした?」
「お、おば、おばば、!」

その何かとは、ダンテだった。彼から逃げていたこなどすっかり忘れてしまっているのか、琴音はぎゅうっとダンテの服を掴んで人骨がいた方を必死に指さしている。涙目になって何かを訴えている様子の##NAME1##に、ダンテは首をかしげた。

「おば?」
「お、お化けです!お化けがいたんですっ!」
「…お化けって…、アレのことか?」
「ひ…っ!」

つい、とダンテが視線を向けた方を恐る恐る見てみると…。そこには先程と同様にこちらに向かってくる人骨の姿が。ひっしとしがみついてくる琴音の姿に少しだけ口許を緩めながらも、ダンテは安心させるように琴音の背中をポンポンと叩いた。

「日本刀が武器とは、なかなかクールな悪魔だな」
「あ、あくま…?」

悪魔、という言葉に琴音は目を数度瞬かせた。近づいてくる人骨を指さし、もう一度、今度はダンテの方を見て「あくま?」と尋ねる。「見ての通り悪魔だな」、とダンテが返せば、琴音は無言でハンドガンの銃口を人骨に向け…引き金を引いた。

「悪魔ならば怖くありませんし、お化けと非常に紛らわしいです。遺憾の意を示します」

右の膝を打ち抜かれた人骨のお化け…、もとい悪魔は、片足を負傷したことによりバランスをくずして片膝をついた。それでもこちらに向かって飛びかかってこようとしたところ、ダンテが眉間に1発銃弾を叩き込んだためその場に悪魔は崩れ落ちたのだった。

「悪魔だったなんて、全然気づきませんでした。ありがとうございます、ダンテくん。では私はこれで…」

さも何事も無かったようにダンテからそっと離れ、そのまま歩いて行こうとした琴音。しかしそれをダンテが黙って見過ごすはずもなく。琴音の首根っこを掴み、にっこりと笑った。

「待てよ、コトネ。こんなところで会うなんて、思ってもみなかったんだ。ゆっくりじっくり、お話でもしようじゃねぇか」
「て、丁重にお断りを…」
「させるわけねぇだろ?」

洗いざらい話してもらうぜ?そう言った彼に、琴音はレオンに心の中で何度も謝りながら小さく「はい…」と肯定の言葉を呟いたのだった。



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2014/05/27