chapter12


「お嬢ちゃん」

鬱蒼と草木が茂る森の先に、洋館がある。人の手入れが施されていないそこは、車で入ることは到底できなかった。車での進入を諦めた琴音は、必要なものだけを身につけて、洋館を目指して歩き進んでいた。

その中で、声をかけられたのだ。大木の影からひっそりと出てきた、黒いローブを全身に纏った男。目許だけしか確認することができない男に、当然琴音は警戒した。いや、それだけではない。このような人気の無いところで、この男は一体何をしているのか。…人のことなど到底言えないが、琴音は怪しすぎるこの男となるべく距離を取りながら、男を観察した。

「見た所普通のお嬢ちゃんじゃないみたいだが、あの洋館に行くのかい?」
「……」
「だったら止めときなァ。あそこは今、悪い奴等の巣窟さ」
「…どういうことですか?」

気になる言葉に、琴音はやっと口を開いた。その反応に満足したのか、男は嬉しげに目を細める。

「そのまんまの意味さ。悪い悪い奴等の巣窟。お嬢ちゃんみたいな子は、頭から喰われちまうぜ」
「…それ以上喋る気はないようですね…」

ニヤニヤと笑う男。琴音はこの怪しい男から、何か有力な情報が得られないかと思ったが…。これ以上は無理なようだ。踵を返して洋館に向かおうとしたその刹那。

「ハンドガンとナイフだけじゃ、この先厳しいと思うがなあ」

男のその言葉に、パッと振り返った。ジャケットの下に隠れているであろうハンドガンとナイフの存在に、この男は気が付いていたというのだろうか。いったいこの男は何者なのだろうか。

「俺は、金や宝石、お宝の類が好きなんだ。それさえくれれば、その価値に応じて武器をくれてやる」
「武器商人、という訳ですか」

琴音の疑問を読み取ったのか、男…武器商人は自分の正体を示した。とすると、恐らく彼の黒いローブの下には多くの武器が隠されているのだろう。それでも琴音は、この男がなぜこのような場所にいるのか、またなぜ洋館の事情について詳しい素振りを見せるのか分からなかった。

***

結局琴音は武器商人から何も買うこともなく、その場を離れた。武器商人は残念そうにしていたが、すぐにヒヒッと笑い「また会う機会があれば、宝石の1つでも持ってきな」と去って行った。最初から最後まで怪しい人物であったのには違いない。しかし琴音のカンであるが、恐らく彼は害のある人間などではない。あくまで、カンだが。

さて、森の中を進む琴音だが、やっと目的地に到着したらしい。目の前には、思っていたよりもずっと大きい洋館がそびえ建っていた。

「あっ、」

思っていた以上に大きいそれを見上げていると、洋館の端の方に車が停めてあるのを見つけた。それは昨日ホワイトが乗っていたものであり、琴音は驚きと歓喜に小さく声を漏らしたのだ。とはいえ、どのようにここまで車を持って来たのか。琴音がやってきたルートでは、車は通ることができなかった。となると、まだ別に道があるのだろう。

「いえ、それよりもレオンさんに連絡…!」

逃がしてしまったとばかり思っていた相手が、この洋館にいたのだ。喜ぶにはまだ早いが、琴音はとりあえず安堵した。不安と責任で押しつぶされそうになっていた心が、少しだけ軽くなったのは言うまでもない。しかし問題はこれからだ。今度こそ、相手の正体をきちんと見定めて報告をしなければ。こんな古びた洋館にやってくるにはそれなりの理由があるに違いない。相手の尻尾を掴むチャンスだ。

『こちらレオン』
「こちら琴音です。たった今例の洋館に着きました。その洋館で、ターゲットが乗っていた車を確認。…ですが、ホワイト本人の姿はまだ見ておりません」

洋館内から琴音の姿が見られないよう、洋館を窺いつつ木々にまぎれて報告をする。レオンはふむ…、と1つ頷き、少し間を置いて口を開いた。

『こちらの方で、その洋館を調べてみた。洋館は建てられてから50年近く建っているらしいな。10年前にその洋館の主人が死んでからは、誰も使用していないそうだ。交通の便も悪いためか、買い手が見つからず半分放置していたらしい』
「誰も…住んでいないんですか…?それにしては…」

ちらと洋館を見る琴音。それにしては、10年も放置されているようには見えない。人の手が加わっているような小奇麗さが、そこにはあった。

『半分放置、と言ったろう?実はその洋館を管理している人物がいてな。10年前に死んだ主人の使用人で、時々洋館に来ては掃除をしていたそうだ。小奇麗に見えるのはそのせいだろう』
「ああ、なるほど。…ってまさか、ホワイトがその管理人さんなわけありませんよね?」
『当然だ。つまり、奴は不法侵入をしていることになる』

しかし、それは変ではないだろうか。このような小奇麗な洋館に、ホワイトはどうして侵入するのか。人の手が加わっているのは、明白である。人に見られたくないことを行うならば、もっと他にいい場所があるのではないか。1つ疑問に思えば、次々と新しい疑問が生まれてくる。妙に胸のあたりがむずむずする、気持ち悪さがあった。

「ホワイトは人目を避けるためでは無く、この洋館に用がある…ということでしょうか?」
『理由は分からないが、その可能性は高いな。コトネ、今俺はそちらに向かっている途中だ。だが、到着するのに3時間近くかかってしまう。そこでだ。コトネは先に洋館に侵入していてくれないか。ホワイトがアンブレラの元社員である決定的証拠を見つけた場合は、即座にホワイトを捕まえてくれても構わない。発砲許可も出ている。…いけるな?』

念を押されるように尋ねられ、琴音は一瞬言葉に詰まった。しかしそれは一瞬だけのこと。レオンは琴音を信じて、任務続行を指示したのだ。それを十分理解している琴音は、力強く頷いた。

「了解しました。では、先に洋館への侵入を図ります」
『ああ。何かあったらその都度連絡をするように』
「はい。それでは」

通話を切った琴音は、1つ深呼吸をして洋館を見た。まだ日は高いため、慎重に行動しなければホワイトに姿を見られるかもしれない。琴音は今度こそ円滑に任務を遂行させようと、意気込む。

まずは洋館の外回りの探索だ。こんなにも大きな洋館である。恐らく正面の入口とは別に、いくつか裏口もあることだろう。それを探すことも兼ねて、琴音は洋館の裏の方へと回ったのであった。

***

さて。洋館をグルリと一周してみたがこれがなかなかの広さがあって、一周するのに20分近くかかってしまった。しかも中庭らしきものもあるようで、建物と建物の間から噴水も見て取れた。思った以上の広さに、どうしたものかと琴音は考える。しかも先程レオンが言っていたように、管理の方もきちんと為されているらしい。裏口という裏口は、全て鍵がかかっていた。

そして建物自体は古いが鍵の方は最新のものに取り換えられており、残念ながら琴音のピッキング技術はそれ等に追いつけそうに無い。残る頼みの綱というと、正面玄関のみ。

「正面突破、ということですか」

琴音は、これで正面玄関も鍵がかかっていたらどうしよう…と、やや卑屈なことを思わず考えてしまった。それでもとにかく行ってみなければ分からないというもの。琴音は膝をついて、ハンドガンに弾がしっかりと装填されていることを確認した。そして壁よりに移動しようと思い、洋館の壁に体重を傾けたその刹那。

ガコン

「えっ」

よりかかった壁が、半回転したのである。琴音の体は、重心により倒れこんでしまった。ハンドガンを両手で構えていたこともあり、琴音は強かに肩と額を地面に打ってしまう結果となってしまったのだ。

「い、痛い…!」

額を擦りながら上半身を起こすと、目の前には四角く切り取られた―赤い絨毯と高級そうな家具が置かれている―風景が広がっていた。もしやと思ったが、どうやらここは屋敷の中らしい。そして琴音が今いる場所は、おそらく暖炉。上へと顔を向ければ、これまた四角く切り取られた青い空が見えたので間違い無いだろう。琴音はそのまま室内へと入り、見事洋館内へと侵入することができたのであった。

「それにしても、どうしてこんなカラクリが…」

無事洋館内に入れたのはいいが、変なカラクリに琴音はとまどうばかりである。とりあえずこの問題は後回しにして、気を取り直して琴音は現在いる部屋を見回す。少しばかり埃っぽいが、綺麗に整頓された部屋だった

「サロン…みたいですね…」

それなりの広さはあるが、暖炉と机と椅子以外、特にめぼしいものは無い。部屋から出ると廊下がずっと続いており、目の前の窓からは中庭が見えた。先程ちらりと見えた噴水が真ん中にあり、水は出ていないながらも立派な出で立ちを保っている。手入れの問題からか花は見当たらないが、小奇麗な庭であった。穏やかな雰囲気を醸し出してはいるが、ここにはホワイトが潜伏しているのを忘れてはいけない。

この広い洋館の中、とりあえず琴音はしらみつぶしに探索することにした。まず、今いる場所から正面玄関の方へと向かう。前から順番にあたっていこうという訳だ。長い廊下を歩き続けていると、正面玄関へと出ることができた。大きな玄関の扉の正面には、立派な階段。ここのフロアの部分だけは、ふきぬけになっている。

玄関の扉の鍵が開いていることを確認すると、琴音は次の部屋へ探索しようと踵を返したそのとき。ずり…ずり…という、衣擦れの音と、重たい金属が触れあうような音がした。慌てて近くの太い柱の影に隠れた琴音は、近づいてくるその音の正体を見て目を大きく見開くこととなる。

「(…悪魔…っ!)」

そう、音の正体は悪魔だった。長いローブに己の背丈以上ある大きな鎌を持ったそれは、間違うことなく悪魔の姿である。悪魔はきょろりと辺りを見回したかと思うと、再び来た方向へと戻って行った。

「ふー…」

緊迫した空気から解かれ、琴音は思わず深いため息をついてしまった。まさか悪魔までこの場にいるとは思わなかったが、ホワイトの部屋で悪魔と遭遇したことといい、ホワイトの周りには悪魔が必ずつきまとっている。ここまでくると、もはや偶然ではないだろう。

悪魔が人間を殺すことをせず深く関わることなどあるのか、それは琴音には分からない。しかし、ホワイトは悪魔と関わっている。断言しても構わないだろう。洋館内には悪魔がうろついていることを念頭に、琴音は次の場所へと移るため足を踏み出したのだった。



***NEXT
無理やり感が否めませんが、まだガナードになる前の武器商人とかを出してみました。武器商人って妙に愛着が湧いてきますよね。ああいうキャラって好きです。
ちなみに洋館ですが、無印バイオっぽいものを想像していただければそれでオッケーです。

2014/04/06