novel
真っ白な原稿用紙と飽和状態の炎暑
もくもくと湧き立つ入道雲はいつも通り、何の狂いもなく型にはめたような形を作り出す。それの姿に面白みを感じていたのは数日だけ、その後は飽きてしまった――という考えがこの部屋に溜まる汗まみれの文士達の総意だった。繰り返す景色はいかにも滑稽で、すぐにでもペンを原稿用紙のマス上に走らせたくなる衝動を生む。だがしかし現実と言うものは残酷なもので、日差しが差し込む和室でガリガリと只管に腕を動かしたとしても、次の“七月二十九日”には書き込んだ形跡はおろか、炬燵の上に山積みになった原稿用紙すら煙のように消えてしまっている。ペンは片付けてもいないのに自室の引き出しにご丁寧に収納済みだった。何故ここまでのことを事細やかに語れるかと言えば、実際にうだるような暑さの和室に一日中居座って試して、そして四人揃って絶望したからだ。知ってはいたけれど、知ってはいたけれど!! と珍しく唇を噛み締めて畳に手を突いて感情任せに殴りつけた徳田の哀哭を彼らは忘れないだろう。だがその数秒後に扉を叩いた志賀からの差し入れであるとんでもなく女子力の高い、高さ三十センチ以上のかき氷で全ての記憶なんてどうでもいいと思ったようだが。だがしかしそれも日常であることには変わりない。
もう暑さから何も考えられなくて必死でスプーンを動かしたものだから、ものの五分で四人のガラス皿の中身は空っぽになった。いつもの二倍の速さで涼しげな景色はあっという間にむさ苦しい男の部屋に逆戻りし、先ほどまで大量の氷が部屋の真ん中に積まれていたせいかこころなしか気温が下がっていたこの日当たりが妙にいい部屋もかき氷が運ばれてくる前の気温に戻ってしまった。勿論太陽の位置の関係上志賀がこの部屋の扉を叩くときよりもずっと気温が上がっているのだが、彼らには気づく余地もないらしい。
一番律儀な徳田が四人分のガラス皿を炬燵の上に積んだのを確認したところで、国木田は固く閉ざしていた(と言うよりも、直前まで氷を頬張っていたのだが)口を開いた。
「さて何をしようか」
「またそれかよ」
「もうずっとこのままでいい気がする、国木田の部屋の冷房が直ればの話だけど」
あーあ、明日なんて来なければいいのに。島崎は何の悪気もなく、今の彼らにとってはあまりにも不吉な台詞を口にする。おいやめろよ、と田山が苦い顔をして制さなければ彼らからもっと明日が遠のいていたのかもしれない、と徳田は肩を震わせる。言霊とは恐ろしいものだ、と。
「お前らなあ……」
「ほら、国木田は二人に押されないで。……何度も国木田が言っているように、僕達は“七月二十九日”から抜け出さなければならないのだから」
「どうしよう秋声が言うと偉く説得力がある」
「わけわかんねぇよお前ら……」
徳田ぁ、あとは頼んだ……と国木田は徳田の肩に縋る。そんな徳田は肩を落として、「さて、僕達は何をすればいいんだろうか」と至極面倒臭そうに口を開いた。蝉は残念ながら昨日と全く同じ時刻に鳴き止んだ。