倉庫




 ■死神の薫陶

 豪奢だが品の良さが際立つボンゴレ本部の一室で、右腕の淹れた紅茶に舌鼓を打つ男と、上等な漆黒のスーツに身を包んだ男が、ベルモットの前に座っていた。
つい先ほど交わした自己紹介によって分かったことだが、このスーツの男、裏社会では非常に名の通ったヒットマンだったのである。暫く名を聞くことが無く、一時期は死にでもしたのかと噂が立ったこともあったが、まさか家庭教師をしていたとは思いもしなかった。

「…まさか、最終的に千の顔を持つ魔女まで捕まえてくるとは思わなかったが…」
「だって、ヘッドハンティングは強欲に傲慢に、ってお前が言ったんだろ。その通りやっただけだし、有能な人材はいくらいても無駄にならないって言ったのもお前だし、実際ベルモットくらい凄い技術を持った人がいたら欲しいなーって思っちゃっても仕方ないだろ?それにこれから俺、各方面のご老人方に黙ってもらえるくらいの実力を示さなきゃいけないんだから、ちょっとくらい戦力過剰でもいいじゃんか」

 きらりと輝いた琥珀に見覚えがあり、ベルモットは全てを捨てた瞬間のことを思い出した。あの目だ。琥珀と言うよりはさらに煌々とした、鮮やかな宝石。この両の宝石に魅入られて、ベルモットは全てを決めたのだ。


なるほど。一体誰なのかと思ってはいたが。
人を魅了する怪物を生み出したのは、他でもない、この死神だったという訳だ。













「改めて、ごめんね透君。ベルモットは俺が貰ったよ。すべて解決はしたけど、彼女を日本警察に渡してやることはできないし、もし捕まえようとするのなら全力で対抗する。結局のところ今回は目的が一致していただけで、やっぱり俺たちはマフィアで、捕まえられる側の人間だからね。……でも、正直言うと、俺は透君も欲しいからさ」
「…はい?」
「あ、引き抜きは止めてくれって!ゼロが日本からいなくなったら本当にヤバイから!」
「そりゃ、無理矢理なんてさすがにできないよ。ただし、いつでも。気が変わったら、俺に直接連絡してくるといいよ」

 見送りくらいはさせてくれと空港までやって来た安室と諸伏に、ひらひらと陽気に手をひらめかせながら去っていくエルシオ。
連絡なんて。安室は“エルシオ”の連絡先しか知らないというのに。
途端、はっと思い至って慌てて携帯電話を開き、液晶に指を走らせアドレス帳を漁ってみれば、「さ」の欄に明らかに見覚えのないその四文字。
………いやいや、彼日本人だったのか。最後まで本名を名乗らず消えていったくせに、こんなところで。
思わず笑いがこぼれた。全て終わってみれば結局彼は、イタリアでの騒動の後に宣言していた通り、一貫してこちらに協力するスタンスを崩さなかったのだ。



 …彼の故郷がこの国なのであれば、いつかどこかで、また会うことがあるだろうか。
日本を捨てて彼の元へ行くことは、無いと断言できるけれど。



Fin.


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