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 善人だな。
一目見て、顔を合わせて、嫌味のひと欠片もないような軽やかな笑顔を向けられた瞬間から、疑いようもなく明らかだった。
「初めまして。俺、沢田綱吉って言います。呪術のこととかほとんど分かんないけど、教えてくれると嬉しいな」
 髪と瞳は栗色。やや日本人的ではないと言える白い肌に、どこかの血が混じっているのだろうかと予測する。伏黒はその右手を緩く握り返し、よろしくと返事をした。
「伏黒恵だ。…呪術のこと、知らないって言ってたが、一般家庭の出なのか」
「俺が生まれた家は間違いなくそうなんだけど、どうやら遡るとそうでも無かったみたいで…俺としてはいまいちよく理解出来てなくて、俺の母方の祖母の実家が、神宮家ってとこの分家筋だったんだって」
「神宮家…それは、また…古い家が出てきたな」
「らしいね。俺の母親も、母方の祖母も呪術師じゃないんだ。呪力がないから呪霊も見えない。何でか俺の代で隔世遺伝?したみたいで。…で、色々あって神宮家の跡継ぎ問題の解決策として俺が引っ張って来られた」
 綱吉が語ってくれたのは、呪術界の自分勝手な都合と欲に塗れた神宮家の所業だった。自分自身も血筋だけは古い家に連なっているだけに、綱吉に与えられたはずのこの世界に来ざるを得なかっただろう不自由な選択を思うと腹立たしくてたまらなくなる。そんな経緯を持ちながらも明るく振る舞う綱吉は、本当に呪術師らしく負の感情など持ち合わせているのだろうかと疑うほどに善人であるように見えた。
「ところで俺さ、今日から入寮で荷物ももう届いてて、担任の先生が迎えに来てくれるらしいんだけど、来なくて…」
「あー悪い、先に言えばよかった。その担任、五条さんって言うんだが、急遽任務で空けてて。だから代わりに俺が迎えに来た。先に入寮してたし、沢田の部屋、俺の隣だから」
「あ、そうなの?五条…ってあの、呪術界の御三家のだっけ」
「その辺は分かるんだな」
「神宮家の人達が最低限知識は詰め込んで行けって。でも正直呪力とか術式とかそういうのいまいちわかんないままなんだよね」
「…まあ、その辺はこれから授業でもやるだろ。部屋、こっちだ」
顎をつい、と上げて方向を示した伏黒に着いて、綱吉は新たな住処となる寮へ足を踏み入れた。ピカピカに新しい訳でもない。しかし古くボロボロという訳でもない、いかにも学校の寮と言った風な建物だった。
伏黒に案内された寮の部屋には既にいくつかのダンボールが運び込まれていた。それほど量はないから、片付けはすぐに済みそうだ。
「ここまで案内してくれてありがとう!同学年に優しい人がいて良かったよ」
「いや別に…頼まれただけだから」
「ふふ。これからよろしくね、伏黒くん」
「おう」


 …というのが、伏黒と同級生の一人である沢田綱吉との初対面だった。呪術界には珍しすぎる程の善人具合だと思ったものだが、もしかしたらこの学年はそういった奴が集まるよな運命だったりするのだろうか。
 両面宿儺の指を入手するだけの予定が、何が狂ったのか両面宿儺を受肉させた虎杖悠仁を高専へ連れ帰ることが決定してしまった帰りの新幹線の中で、眠る虎杖を横目に、ぼそりぼそりと五条と言葉を交わす。
「へー。僕が迎えに行く予定だった子、そんないい子だったんだ。悠仁といい、楽しい学年になりそうだねえ」
「…虎杖が入学できたらの話でしょ。どうにかしてくださいよ、マジで」
「そこは先生に任せなさいって。…にしても、神宮家の跡取りねえ。ちょろっと聞いたけどその子、イタリアの血も引いてるらしいんだよね。よくもまああの神宮家がそれを受け入れたもんだ。それだけ跡継ぎ問題が深刻だったってことかな」
「…ああ、確かに少し、外国人っぽさはありましたね。イタリアなんですか」
「そ。まあ詳しくは知らないけど。外国じゃあ確実に日本の呪術師の家系とは関わりないだろうし、去年の憂太みたいに訳ありって程でもなかったからそこまで細かい調査もしてないみたいだし。でも、仲良くやれそうなら良かったよ」
にまにまと唇を緩める五条にため息を吐いてみせた。
 彼は間違いなく善人だ。それ自体にどうこう言うつもりは無い。善い人間であるということは良い事である。悪人が同級生になるよりずっと良い。けれど。
「…善人ばかりが損をする世界ですよ、こんな所。呪術界のことなんて知らなけりゃ平和に生きていたはずなのに。沢田も、…虎杖も」


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