■眩耀に焦がれる王
「…俺はどうしてここに…いや、そもそもなぜ生きているんだ…?」
「単純な話です。貴方の拳銃が貴方の心臓を撃ち抜かなかった。撃ち抜かないよう、こちらで手を回した。貴方を助けようとしていたFBIの彼にも、貴方が生きていることは知られていないでしょう。貴方にはしばらく、死人でいてもらわなくてはならなくなりました」
「あの場に、俺とライ以外の人間はいなかったはず、だが…いや、下から駆けあがってくる足音が聞こえたが、もしかしてそいつが?」
「それはまた別口でしょう。…すみません、どう細工をしたかを貴方に詳しくお話しすることはできません。今日本に戻っても貴方には行く宛がないだろうし、その時が来るまではここに留まっていただけませんか?」
「いや、どうせすでに死人になったんだ。……反対する理由は、無いんだが……その、どうして俺を助けたのか、目が覚めた時にはこの部屋だったが、そもそもここはどこなのか、何より、アンタが何者なのか…。分からないことだらけなんだ」
綱吉が九代目から黒の組織に関する権限を引き継ぎ、潜入を開始し、サンブーカのコードネームをその手にしてから、さほど時間は経っていなかった。組織のネームドであるスコッチという男に殺害命令が出されたと知った綱吉は、あわただしく対抗策を打った。後々家庭教師から、やれ穴だらけ、その場しのぎ、稚拙極まりない根回しの手際だと散々ダメ出しをされた急ピッチでの作戦ではあったが、結果として一人のNOCの命を救いあげることが出来たのだから、綱吉としては満足だった。幻術士様様である。チョコレートの請求書が恐ろしかった。
掬いあげたNOCであるスコッチは、自らを拳銃で撃ち抜こうと引鉄を引いた瞬間、意識を失った。骸とクロームの手腕により死体を偽装し、穴一つ空くことの無かった本物のスコッチ自身は、目を覚ます前にイタリアのボンゴレ本部へと運び込むことが出来た。
死んだかと思えば傷一つ無く生きていて、現在地は日本ではなくイタリア。混乱するのも無理は無かろう。綱吉は一つずつ丁寧に、話せる限りの情報をスコッチに与えた。自分は黒の組織に潜入しており、コードネームはサンブーカであるということ。今現在スコッチはシチリア島にあるマフィア、ボンゴレファミリーの本拠地に居るということ。ボンゴレが壊滅を望むとあるファミリーと黒の組織が強く結びついていること。そのための潜入中、スコッチを救うに至ったこと。きつく目を瞑って状況を飲み込むように数秒黙ったスコッチは、すくりと立ち上がると背筋を伸ばし丁寧に礼をした。命を救われた恩を必ず返すこと、ボンゴレ本部に留まることを受け入れるということ、時が来るまでここで力を貸すということ、それらを約束した。
自らの所属と本名を語った諸伏は、心身の療養を義務付けられ、その間は綱吉の雑談相手に徹することが多かった。
「同じ、NOCとして潜入していた仲間を、一人で置いて来ちまったことが、どうしても心残りで。……俺のせいでアイツも疑われてるんじゃないかと思うと」
「同じ日本警察からというと、バーボン…ええっと、安室透、だったっけ?」
「ああ。本当に優秀なやつなんだ。俺のヘマでアイツまで芋づる式に…なんて、有っちゃいけない。あんな気の狂いそうな潜入任務で、アイツはいつだって正しくて、自分の信念を貫いてる。それが俺にとっての希望で救いだった。少しでもアイツの力になれていたら、良かったんだけど」
視線を落とした諸伏に、綱吉は、二人の付き合いは長いのかと尋ねた。幼馴染だと答えれば、興味深そうに目を輝かせた綱吉は、なぜ二人が同じ警察官という職を選んだのかや、安室の為人を聞かせてほしいと言った。
昔から正義感の強い、間違いを間違いだと声を張ることのできる奴だったと、諸伏は語った。綺麗ごとばかり貫き通していられる子供時代が終わってなお、その本質は変わっていないのだとも。きっと自分一人きりになろうと、彼は最後まで自分の決めた正義を貫き通すことが出来る心を持っているだろうと、そう締めくくった諸伏の表情は和らいでいた。彼の尊敬の念が、ありありと伝わってくるようだった。
「カッコいいなあ。何年経ってもずっと自分の正義を貫き通せる人ってとても少ないと思うんだよね。君の幼馴染はすごいよ。羨ましいくらい。俺なんてなんだかんだその場に流されてきて、たった一人じゃ意志を貫くのはとても苦しいから。……彼はとても、強い人だね」
灰の両目が自慢げに、柔らかく、細められた。
「…でもアンタにも、無条件にアンタを支えて着いてきてくれる仲間がいるだろう。まだここでの生活は日が浅いが、ああ、守護者だったか?特にアイツらはそうだ。きっと何があっても最後までアンタに着いていくだろうなって、見てて分かる」
「ん。……感謝してるよ、皆には。俺が俺の望みを叶えるために、意思を貫き通すために、もし皆がいなかったら今頃とっくに折れてる」
最後の一人になっても目的を遂げるために足を止めず走り続ける安室透があまりにも眩しかった。諸伏の緩められた視線の先に居るであろう彼には、どうか目的を遂げてほしいと思った。
一方的に肩入れして、都合よく利用されるかもしれないと、守護者たちからやんわりと咎められるのだろうと予測はついたけれど、これは綱吉のエゴのようなものだった。似ても似つかない自分と諸伏の幼馴染である彼を、綱吉はどこかで重ねて見ているのかもしれなかった。
「サンブーカ、だったっけ」
「うん?」
「もし“バーボン”に会うことがあれば……」
「…うん。俺にできる限りのことはしよう。友達になれたら、嬉しいんだけど」
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