ついに作ってしまった。昨日陸奥に相談した時、作り始めていた時はとっても自信満々で作っていたのに、タッパーに詰めて銀さんの部屋の前に立つと途端に緊張が走る。もし口に合わなかったらどうしよう、というか肉じゃが好きかな?無難すぎ?食べれない野菜とかあるかな?と、ぐるぐるぐるぐる不安要素が頭を駆け回る。ううん、でも、陸奥のお墨付きなんだから、きっと大丈夫。銀さんの部屋の前に立って10分経ってからやっと、部屋のインターホンを押した。すぐにドアが開き、気怠そうな顔をした銀さんが顔を覗かせる。
「はい〜?何だよ新聞ならもういらねぇっつってんだろ、何回来るんだてめぇはよ…」
「あの、こんにちは、お隣の名字です…」
「え、名前?どうしたんだよ」
「お礼が遅くなってしまって本当にすみません!あの、ご飯を作ってきたので、良かったらどうぞ!」
頭を下げながら肉じゃがの入ったタッパーを差し出す。ああ〜…と頭上で声が聞こえて、そのあとすぐに手からタッパーがするりと離れた。
「すっかり忘れてたわ、覚えてたんだな」
「もちろんです!いやもう、本当に遅くなってしまって申し訳ないです…」
「良いって、堅苦しいのはナシっつったろ」
タッパーの中身をしげしげと観察している銀さんの顔が見れなくて、今すぐここを離れたくなってしまった。美味しいかな?味見はしたけど、大丈夫かな?また悪い癖が出てあれこれ考え始めてしまった。ずり、と足が一歩後ろに出る。
「これ肉じゃが?」
存外嬉しそうな声が目の前から聞こえて、思わず声が上擦る。
「は、はい」
「めっちゃ久しぶり。家庭料理とかいつぶりだよ…」
「自炊されないんですか?」
「たまーにするけどな、作るの面倒だし、最近はめっきり」
マジ助かる、ありがとな。そういって微笑んだ銀さんにとっても安心して、強張っていた体の緊張がするりと解けた。
「食ったら洗って返すわ」
「ありがとうございます!では、」
「おう、いただきます」
にかりと笑って、私が部屋に入るまで見守ってくれる銀さんはやっぱり良い人だ。初めての一人暮らしで不安がたくさんあったけど、隣の人が銀さんで良かったな…。何よりもまだ食べる前なのに嬉しそうに受け取ってくれたことが嬉しくて、幸せで、この気持ちのまま寝てしまいたくて、珍しく日付が変わる前に寝てしまった。
次の日仕事から帰ると、ドアノブに「美味かった」と一言書かれたメモ書きと綺麗に洗われたタッパーがかかっていて、たまらなく幸せな気持ちになった。