ひとしきり言い合って笑い合った頃にはもう日が沈みかけていて、公園にいた人も街を歩く人の姿もまばらになっていた。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだな」
やっと顔の赤みが引いて、通常のトーンで会話が出来るようになった彼は、ベンチから腰を上げて歩き出す際、あくまで自然に手を握ってきた。
こちらも何も反応をせず、あくまで自然に言葉を交わしながら駐車場に戻る。横目で彼の顔を見ると、ようやく引いた顔の赤みがまた少し復活していた。
結局、手を離したのは車に乗り込むときくらいで、車内でもずっと手を握り続けていた。
タイミングを逃して元彼にも正確な場所は教えなかった自宅に送ってもらうまで30分。今日見た映画の感想や、街で見かけた買いたいような気がした物の言い合いなど、本当にただ他愛もない話を続けた。
「そこ、家だから。ここで止めてくれれば良いよ」
「おう」
他の車の邪魔にならないような場所に寄せて車を止めた彼に、意図を掴みきれなくても思わず微笑みが零れた。
車が停止したのを確認して、シートベルトを外す。彼の手だけが外れない。
喉元から聞こえる声すらも無い。互いの息と車のエンジン音だけが聞こえる中で、私も手を外そうという気がなかった。
深呼吸をする。握った彼の手が、少し震えているのが伝わっていた。
「私、一人暮らしなの」
何を言おうか悩んだ末に、結局彼の反応を楽しむ言葉が零れた。案の定、伏せていた顔をすぐに上げて声を上げた彼に、結局笑ってしまう。
「そ、りゃダメ、だろ。さすがに」
「別に? 私はまだ何も言ってないんですけどね?」
「俺だってそのくらいの意図はわかる」
「まあ多分思ってる通りなんですけどねー」
喉を鳴らして笑う私の頬も、彼と同じく赤くなっているような気がした。
「そこまでわかってるなら、たまには男らしくはっきり言えば良いのに?」
お互い、何を思って、何を答えるかなんてわかりきっている。それでもお互い、言い出す側になるほどの勇気も余裕も無い。
煽るわりに肝心の言葉を出せない自分自身に呆れ、そういえば長く彼と一緒にいるような気がするけれど、つい昨日まで他の男の彼女だったんだと思い出して余計に言葉が詰まる。
同じように言葉を詰まらせていた彼が、少しだけ私を見たのを感じた。ひっくり返った息が聞こえた。
「彼女になって、くれませんか」
「…………ん。よろしく」
同じように私の声もひっくり返って、一瞬顔を見合わせて、そのままお互い笑い合う。
ようやっと、「この手を今離しても、また同じように触れる」とお互い認識をして、笑うと同時に手が離れた。
ページ: